もうここまでくれば認めざるを得なかった。
 自分は本当にどうしようもない人間で、たとえ「高木ひまり」として生まれ変わろうと、人生を豊かに過ごすことが出来ないのだと。
 昼間、母親が仕事に行っている間、ひまりはリビングで寝ころんで、一人で本を読んでいる。読書以外、特に趣味と呼べるものもなく、生前のように銃を撃つネットゲームをしたいとは思わなかった。これは性別による指向の違いなのかもしれない。
 また成長していく過程で、親の教育方針によるものだろうか、心も女性に染まっていた。将来恋人を作るのならば、間違いなく男性だ。たった十数年前までは女性に魅力を感じていたのに、女性として育てられて男性を好きになるのだから、やはり環境というものは大切なのだ。
 ひまりが男性に触れることができなければ、その変化も無意味ではあるが。
 心は完全に女性に染まって、女性として生きることを受け入れた。
 しかし思春期だからだろうか、ひまりの心情には変化が起きていた。
 母親と会話をすることにほんの少しの気まずさを覚えていた。その理由は物凄く単純で、ひまりが不登校になることで母親に迷惑をかけているのではないかと思ったからだ。
 理由は単純だからといって、次の日にひまりが学校に行くことが出来るようになるわけがない。理由は分かっているのに、そのために何をすればよいかが分からない。問題は複雑だった。
 そうして本を読んでいると今日も一日が終わる。
 学校へ行かなければならないことは分かっているのに、人と触れ合うことが出来ない。上手く会話ができない。
 一体、自分はどうすべきなのだろうか。そんな毎日を過ごしていた。