ひまりは夢を見た。
 そこは見慣れた景色で、しかしどこか違うようにも見える。
 慣れたように児童公園のベンチに座って星空を見上げたとき、どこが違うかに気づいた。
 隣には誰もおらず、腕の中にも誰も抱きかかえられていない。
 しかし相も変わらず星空は、嬉しいことがあった人の上にも、悲しいことがあった人の上にも、等しく輝きの世界を作り出している。
 ひまりは心の底から、その景色を綺麗だと思う。
 そうしてしばらく眺めていると、少し西の空に夏の大三角を発見した。
 ベガ、アルタイル、デネブ。
 どれがどの名称にあたるかを知っていた。
 しかし夢らしく、脈絡もなく突如として、世界は真っ暗になっていく。
 次に世界が明るくなったとき、夏の大三角はアルタイルを残して消えていた。
 アルタイルは家族同然の星が消え、周囲から浮き、寂しそうに見える。
 しかしひまりは、そこにあるはずのないデネブとベガの残像を辿り、指で三角を作った。それは空まで昇り、星空に三角の軌跡が作られていく。
 夜空に星はたった一つしかない。
 しかし三角は作ることができる。
 たった一つの星を、消えた二つの星が支え合うように三角が形成される。
 そんな風に二人が見守っていてくれるなら、これから先の人生が一人ぼっちでも、まぁ怖くないと思えた。

 やがて空は白み始め、朝日が昇る。
 町は暖かな光に照らされていく。
 夜明け。
 私の知らない世界が始まった。
 長い長い、夜だった。
 まるで永遠の夜のように思えた。
 でも、真っ暗な夜闇が世界を包んだなら、いつかは絶対に朝日が昇る。明けない夜はないのだから。

 そして太陽は空に昇り、町は動き始める。