家に戻ると、左肩の出血を見た母親が、「どうしたの!」と急いで消毒をして、包帯を巻いてくれた。
 何があったかと訊かれたので、「少し昔の反省会をしてきた」と言うと、意味が分からないと一蹴された。しかし深くは訊いてこなかった。きっと、話したくないことだと思われたのだろう。もしくはついにおかしくなったと思われたに違いない。
 包帯を巻いて、テーブルに座る。
 暖かかったチキンやピザは全て冷えてしまっていたが、家を出た時と量は変わっていなかった。みんなはひまりを待っていてくれたのだ。
 傷が浅いものだと分かると、暖めなおすことはなく、まるで何事もなかったかのようにクリスマスパーティーは再開した。
 そしてテーブルの上の料理が全て片付いて、クリスマスケーキを食べる。あの日床に投げ捨てたケーキは、こんなにも美味しいものだったのかと驚いた。
 今頃、秋村翔太は親父と話し合いを終えて、ケーキでも食べている頃だろうか。
 別に仲直りをさせたかったわけではない。
 親になって、親を知った。
 親父のように、たばこや酒に逃げたくなるのも分かる。でも彼には支えてくれる人がいなかった。子供を育てなければならないと思い、子供に甘えることをしなかった。
 結果、ああいった歪な関係が産まれたのだろう。
 今は齋藤ひまりだ。秋村翔太とはほとんど関係のない人物だ。彼は殺人をしなかったことで、自分とは異なる道を歩み始めている。完全なる別人だ。
 しかし彼が人殺しをしなかったとはいえ、自分の罪が消えるわけではない。確かにこの手で、首を包丁で切ったのだ。
 罪に家族。背負うものが沢山だと、ひまりは笑った。
 重たすぎる。しかし家族となら、共有してもいいのではないか。そう思う。
「ねぇ、少し大切な話をしていい?」
「大切な話?」灯花が訊いた。
「そう。私の話」
 母親と内山さんが頷くと、灯花も真似をするように頷いた。
 いざ話すとなると、物凄く緊張する。話さなければいけないことは沢山あるし、できるだけ悲しませないようにもしたい。そして何より、生前のことを包み隠さず言わなければならない。 それはあまりにも衝撃的な内容で、自分でもあまり言いたくないことだ。
 なんて言って始めようか。自分が人殺しとか、秋村家を壊したとか、前世は無職だったとか、自殺して生まれ変わったとか、始まりはいくらでも考えられる。
 でも、家族に言うと考えた時、それに相応しい始まりがあることに気が付いた。
 咳払いをして、深く息を吸ってから言う。
「――私には、大切な人がいたの」
 一人で背負うには、重たすぎた。でも、四人でなら、いいや、六人で分け合えるなら、前を向いていける。
 話し終えたとき、ようやくこの家族の一員になれた気がした。