今年の冬は、険しい冬になるらしい。
 十二月に入った途端、雪が地面に積もり始めた。なんでもこれは、異常気象のせいらしい。ここは雪国であるが、昨年の暖冬のせいもあって、やけに冬を感じた。
 ひまりは一か月ぶりに外に出ていた。
 窓の外は薄っすらと白く染まり、空には灰色の雲が広がっている。数年ぶりに見た雪国らしい空だと、懐かしさを覚えた。
 一か月も外に出ないと体が動かなくなってしまうと、母親にお使いを頼まれた。やることもないので、引き受けて一人でスーパーに向かう。
 免許を持っていないので徒歩で向かう必要がある。不便ではあるものの、町の風景に風情を感じることができるので、嫌いではない。
 たった数センチの雪を踏みしめて町を歩く。すれ違う人は相変わらず老人ばかりで、将来のこの町を不安に思う。ふと老後について考えてみた。歳をとった自分の姿があまりにも容易に想像できてしまって、怖くなる。足早に立ち去る。
 スーパーに到着した。中では流行の曲を、ベルで演奏したものが流れていた。クリスマスが近いことを思い出す。
 この曲は二十四年前に聞いたことがあった。あの日のクリスマスに、スーパーで流れていた。
 あと数週間もすれば、向かいの家で青年が親を殺す事件が起きる。
 そんなことを思い出してしまって、幸せそうな音色がひどく耳障りに聞こえた。
 どこにも居場所が無い気がして、早く家に帰りたかった。今のひまりにとって、視界に入るもの全てが傷つけるものになり得る。
 食材を一通り購入して、すぐにスーパーを後にした。
 
 あっという間に一日、また一日と過ぎていく。
 立ち直ることができなかった。気を遣ってくれる家族に申し訳なく思えて、心の喪失感が消えなくて、次第に家族との会話も減っていった。
 昔から、どこか疎外感があった。
 まるで自分は家族の一員ではないような。そう思っているのは自分だけということは、ひまりも理解しているのだが、それでもどこか距離を感じてしまう。
 理由は明白で、ひまりの本当の姿を一度も見せたことがないからだ。
 自分は人殺しで、親殺し。
 凛にしか言った事のなかったそれを、素直に言うことができたならと考えて、また一日が過ぎていく。