さらに秋は深くなり、冬への準備を始めた。
窓の外の景色は赤く染まり、昼間でも寒さを感じることが多くなった。そしていつ雪が降ってもおかしくないくらい寒い夜が増えた。
凛と美桜が亡くなってから二か月が経過したが、心に穴が空いた感覚は消え去ることはなかった。そして実家に越してきたことで、引きこもり時代の生活に逆戻りしてしまった。心の穴は、時間が埋めてくれるだろう。そう信じて、実家に甘えることにした。
二階の自室からリビングへ向かっていると、階段下で灯花と遭遇した。
「お姉ちゃん、おはよう!」
「おはよう」気だるげに返す。まだ眠気を含んでいる身体では、灯花の元気の良さにはついていけそうにない。
「おはようじゃないよ、今はこんにちはだよ」
そういえば目を覚ましたとき、カーテンの向こうがやけに明るかった。生活習慣を失いかけており、睡眠時間もばらばらになっていた。今はもう昼なのだろう。
「こんにちは」
少し面倒くさそうに言うと、灯花は不機嫌をあらわにして、「もう一回」と言う。それを何度か繰り返す。やがて何回も繰り返すことが面倒になって、少し声を張って「こんにちは」と言うと、灯花は許してくれた。
物凄く面倒な絡みだが、これは灯花なりに、落ち込んだひまりを元気付けようとしてくれているのだろう。人と触れ合う温かさを感じ、二か月ほど忘れていた『家族』を思い出す。
それから灯花の頭を適当に撫でて、リビングへ向かう。
リビングに入ると、内山さんがテーブルで動画を見ており、母親がキッチンで料理をしていた。テレビに映し出されている時刻は十一時五十分だった。もう昼だ。
おはようと言うと、内山さんが「おそようだね」と笑った。
空いていたソファに寝転がってしばらくテレビを見ていると、内山さんが「少し出かけないか」と提案してきた。灯花と同じように気を遣ってくれているのだろう。
別に取り立ててすべきこともないし、付き合ってもいいだろう。
午後は母親が家に残り、内山さんと灯花とひまりの三人で少しだけ遠出をすることになった。
基本はドライブで、三人で会話を楽しむ時間がほとんどだったが、そこに気遣いを感じてしまい、居心地悪く感じた。それは気遣いではあるが、それ以上に家族の時間を過ごしたいということなのだろう。でも今のひまりには、それは皮肉にも感じ取れてしまう。
ここには確かに家族があるけれど、しかしひまりの大切だった二人はもういないのだと、否応なしに突き付けられる。
誰にもひまりを傷つけようなんて悪意はなくて、勝手にひまりが傷ついているだけに過ぎない。しかし差し伸べられた手すら、ひまりを傷つけてしまうのなら、いっそのこと無視してくれた方が良かった。
たった二か月では、立ち直ることはできやしない。
その穴は手首の傷と一緒に、一生背負っていかなければならない。でも今はそれを受け入れることができなくて、目を伏せたままでいたかった。
窓の外の景色は赤く染まり、昼間でも寒さを感じることが多くなった。そしていつ雪が降ってもおかしくないくらい寒い夜が増えた。
凛と美桜が亡くなってから二か月が経過したが、心に穴が空いた感覚は消え去ることはなかった。そして実家に越してきたことで、引きこもり時代の生活に逆戻りしてしまった。心の穴は、時間が埋めてくれるだろう。そう信じて、実家に甘えることにした。
二階の自室からリビングへ向かっていると、階段下で灯花と遭遇した。
「お姉ちゃん、おはよう!」
「おはよう」気だるげに返す。まだ眠気を含んでいる身体では、灯花の元気の良さにはついていけそうにない。
「おはようじゃないよ、今はこんにちはだよ」
そういえば目を覚ましたとき、カーテンの向こうがやけに明るかった。生活習慣を失いかけており、睡眠時間もばらばらになっていた。今はもう昼なのだろう。
「こんにちは」
少し面倒くさそうに言うと、灯花は不機嫌をあらわにして、「もう一回」と言う。それを何度か繰り返す。やがて何回も繰り返すことが面倒になって、少し声を張って「こんにちは」と言うと、灯花は許してくれた。
物凄く面倒な絡みだが、これは灯花なりに、落ち込んだひまりを元気付けようとしてくれているのだろう。人と触れ合う温かさを感じ、二か月ほど忘れていた『家族』を思い出す。
それから灯花の頭を適当に撫でて、リビングへ向かう。
リビングに入ると、内山さんがテーブルで動画を見ており、母親がキッチンで料理をしていた。テレビに映し出されている時刻は十一時五十分だった。もう昼だ。
おはようと言うと、内山さんが「おそようだね」と笑った。
空いていたソファに寝転がってしばらくテレビを見ていると、内山さんが「少し出かけないか」と提案してきた。灯花と同じように気を遣ってくれているのだろう。
別に取り立ててすべきこともないし、付き合ってもいいだろう。
午後は母親が家に残り、内山さんと灯花とひまりの三人で少しだけ遠出をすることになった。
基本はドライブで、三人で会話を楽しむ時間がほとんどだったが、そこに気遣いを感じてしまい、居心地悪く感じた。それは気遣いではあるが、それ以上に家族の時間を過ごしたいということなのだろう。でも今のひまりには、それは皮肉にも感じ取れてしまう。
ここには確かに家族があるけれど、しかしひまりの大切だった二人はもういないのだと、否応なしに突き付けられる。
誰にもひまりを傷つけようなんて悪意はなくて、勝手にひまりが傷ついているだけに過ぎない。しかし差し伸べられた手すら、ひまりを傷つけてしまうのなら、いっそのこと無視してくれた方が良かった。
たった二か月では、立ち直ることはできやしない。
その穴は手首の傷と一緒に、一生背負っていかなければならない。でも今はそれを受け入れることができなくて、目を伏せたままでいたかった。