美桜が熱を出した。
 昨日歩き回った疲れからだろうか。聞いたこともないほど苦しそうな泣き声をあげたため、美桜の身体に異変が起きていると察知した。頭と頭を付けてみると、自分の体温の数倍もあるのではないかと思うくらいに熱かった。
「大丈夫そう?」
 心配そうに凛が訊いた。
「まずそう。病院連れて行かないとかも」
「そんな酷いのか」
 凛は心配そうな表情で、美桜の額に手を当てた。「本当だな」と頷く。
「どうしようか。私のママにお願いするのは……」
「ダメなのか?」
「ダメってことはないだろうけど、私の家族のことで巻き込むのが申し訳なくて」
「なら、俺が病院連れていくよ」
「え、大丈夫なの?」
「今日は特に楽な日なんだ。午前休んだところで問題ない」
「お願いできる?」
「頼ってくれ」と、凛は自信ありげに言った。
 そんなこと言わなくても、いつも頼っているのに。ひまりは心の中でそう呟いた。
 熱こそあるけれど、咳や嘔吐などの症状は見られない。熱中症ではないだろう。恐らくは水族館で風邪を貰ったか、疲労による発熱か。
 しかしまだ二歳にも満たない子供が熱を出しているというのに、大丈夫だと家に置いておけるほどひまりは薄情ではない。大切な家族の一員なのだ。限りなく可能性は低いが、大病だったらどうする。
 考え始めたらきりがない。
 そんな心配を察知したのか、凛が「俺に任せて、仕事に行ってきなよ」と言う。
 だから甘えて、というよりは信頼して、ひまりは職場に向かった。