ひまりたちは一度家に帰ってから、再びあの児童公園を訪れていた。
凛が「星を見よう」と言ったのだ。
湿った熱気が肌に張り付く。ギィギィと、夜にだけ鳴く虫の声と、蝉の声が入り混じっている。夏の夜を感じさせた。
空は雲が疎らに散っていて、晴れてはいるが、以前見たような美しい星空には届かない。それでも雲の隙間から、星がいくつか顔を出している。
そして何より、いつもと違うのは美桜がいること。ひまりの腕の中には、一日出かけて疲れ果てた美桜が、寝息を立てて気持ちよさそうに眠っている。
家族三人だ。幸せの時間。
それはひまりにとって、何よりも大切なもので、最も愛おしく感じるものだ。
それを味わうように、凛に肩を寄せた。
「あれがベガ、デネブ、アルタイルなんだ」突然口を開いた凛は、空を差しながら言った。
「また星座の話?」
少し面倒くさそうに、でも優しく言う。
「それが夏の大三角形なんだってさ」
知らなかったと、ひまりは相槌を打った。
空に大三角形を見つけ、眺めていると、横から流れてきた雲が星を隠した。デネブが隠れて、アルタイルとベガが取り残される。取り残されてしまったものだから、「私たちみたいだね」という言葉は喉奥に留めておくことにした。
「どれか一つでも欠けたら、大三角じゃあなくなっちゃうのかな?」
「どうだろう。よく分かんない。でも、少なくとも俺は、そうは思わないな」
「どうして?」
「そりゃ名目的には三つ揃って初めて大三角だけどさ、『離れてても心は一つ』みたいなやつがあると思うんだよ。だからもしアルタイルが消えても、あれは夏の大三角形に変わりはないんだ。ベガでもデネブでも同じ」
すると雲が流れ、デネブが顔を出した。
そうしてようやく言うことができた。
「私たちみたいだね」そう言ったあとに、夏の大三角が、と付け加える。
「そうだな」
凛は視線を空に向けたまま、頷いた。
たとえ離れ離れになることがあろうとも、三人は家族だ。それには変わりない。
「明日から仕事だから、帰ろうか」
「そうだね」
そう言って二人は立ち上がった。
美桜はまだ眠っていた。よほど疲れたのだろう。星空を見せてやりたかったなと思った。
惜しいけれど、また来ればいい。時間は貴重なもので、すぐに消え去ってしまうけれど、家族の絆は消えないのだから。
「また来ようね」
ひまりの言葉に、凛は目を細めて頷いた。
夜の闇の中でも輝いて見える、ひまりにとってのとびっきりの笑顔だった。
凛が「星を見よう」と言ったのだ。
湿った熱気が肌に張り付く。ギィギィと、夜にだけ鳴く虫の声と、蝉の声が入り混じっている。夏の夜を感じさせた。
空は雲が疎らに散っていて、晴れてはいるが、以前見たような美しい星空には届かない。それでも雲の隙間から、星がいくつか顔を出している。
そして何より、いつもと違うのは美桜がいること。ひまりの腕の中には、一日出かけて疲れ果てた美桜が、寝息を立てて気持ちよさそうに眠っている。
家族三人だ。幸せの時間。
それはひまりにとって、何よりも大切なもので、最も愛おしく感じるものだ。
それを味わうように、凛に肩を寄せた。
「あれがベガ、デネブ、アルタイルなんだ」突然口を開いた凛は、空を差しながら言った。
「また星座の話?」
少し面倒くさそうに、でも優しく言う。
「それが夏の大三角形なんだってさ」
知らなかったと、ひまりは相槌を打った。
空に大三角形を見つけ、眺めていると、横から流れてきた雲が星を隠した。デネブが隠れて、アルタイルとベガが取り残される。取り残されてしまったものだから、「私たちみたいだね」という言葉は喉奥に留めておくことにした。
「どれか一つでも欠けたら、大三角じゃあなくなっちゃうのかな?」
「どうだろう。よく分かんない。でも、少なくとも俺は、そうは思わないな」
「どうして?」
「そりゃ名目的には三つ揃って初めて大三角だけどさ、『離れてても心は一つ』みたいなやつがあると思うんだよ。だからもしアルタイルが消えても、あれは夏の大三角形に変わりはないんだ。ベガでもデネブでも同じ」
すると雲が流れ、デネブが顔を出した。
そうしてようやく言うことができた。
「私たちみたいだね」そう言ったあとに、夏の大三角が、と付け加える。
「そうだな」
凛は視線を空に向けたまま、頷いた。
たとえ離れ離れになることがあろうとも、三人は家族だ。それには変わりない。
「明日から仕事だから、帰ろうか」
「そうだね」
そう言って二人は立ち上がった。
美桜はまだ眠っていた。よほど疲れたのだろう。星空を見せてやりたかったなと思った。
惜しいけれど、また来ればいい。時間は貴重なもので、すぐに消え去ってしまうけれど、家族の絆は消えないのだから。
「また来ようね」
ひまりの言葉に、凛は目を細めて頷いた。
夜の闇の中でも輝いて見える、ひまりにとってのとびっきりの笑顔だった。