目が覚めるとそこは、眩い光に包まれた知らない場所だった。
 長いこと目を瞑っていた気がした。周囲の音が遠く聞こえる。感覚が遠い。近くで女性が泣いて喜んでいることだけは分かった。振り返ってその声の主の顔を見ようとするが、うまく首を動かすことができない。
 すると、唐突に身体がふわりと浮いた。声の主によって抱きかかえられたのだろう。
 声の主はパーツの整った美しい女性で、しかしどこかで見たことのある顔だった。
 目を合わせると、女性はぽろぽろと涙を零して幸せそうに笑った。その笑顔は今まで見た何よりも綺麗に見えて、誰にも穢されて欲しくないと思った。
 するとまた、身体がふわりと浮いた。次はその女性の胸の中だった。そして優しく語り掛けた。
「産まれてきてくれてありがとう。向日葵のように元気に、誰よりも大きくて明るい女の子になってね。世界一可愛い私の子、ひまり」
 ぎゅっと抱きしめられたあと、もう一度顔を合わせた。応じるように声を出そうとすると、自分の口から「おぎゃあ」と間抜けな声が聞こえた。そして背中の向こうに『高木文乃』と書かれたネームプレートを見つけた。俺はその名前をよく知っていた。
 高木文乃とは、高木ひまりの母親の名前だ。
 自分の状況が少しだが理解できた。
 ここは病院で、どうやら俺は、高木ひまりとして生まれ変わったらしい。
 
 二〇〇〇年、一月十六日。高木ひまりは、この世に生を享けた。