実際に来てみればなんてことない。
 しかし一人では絶対に来ることはできなかっただろう。
 彼だからこそ、ひまりは立ち直ることができたのだ。
 家族ではない、誰かの手が必要だった。
 「秋村翔太」という、ひまりの根底にある人格は、誰かの手を借りなければ治療不可能なくらいに歪んでいた。
 その根底にあったのは「人間不信」で、人を信じることができないからこそ、自分一人で抱え込んでしまう。挙句の果てに塞ぎこんでしまう。
 両親の愛を知らずに育ったこの人格は、愛を受容する方法を知らなかった。
 「高木ひまり」として生まれ変わることによって、暖かな家族の愛を知った。少しずつ、愛を受容する方法を知っていった。
 しかし家族とは心の支えであっても、家族だからこそ届かないところがある。
 それを外から支えてくれたのが齋藤凛だった。
 だから今のひまりにとって、凛はまるで運命の人のように見えていたのだ。
 いいや、もしかすると実際そうなのかもしれない。
 運命なんて誰も知らない。知らないがゆえに、自分がそれだと思った相手を探そうとする。もしも彼が運命の定めた相手ではないとしても、ひまりとっての運命の人はひまりが決める。
 彼をそんな風に思えるくらいには、ひまりは凛に感謝をしていた。
 だって、こんな素晴らしい世界を見せてくれたのだから。彼といるだけで世界が広がっていくのだから。
 それが運命の人でないというのなら、どうやって言葉にしようか。
 まさか「好き」とでも言えというのだろうか。
 もしそう言ったのなら、彼はどんな反応をするのだろう。
 でも、それは言えない。
 だってひまりは人殺しなのだから。
 凛に知られたくない。知られる前に、どうにかしたい。
 ひまりにはそんな秘密があるから。