秋も本格的に始まり、肌寒さを強く感じる季節になった。遠くの山には所々色付いている葉も見える。
今は昼休み。ひまりは生徒会室へと向かっていた。
ひまりはあろうことか、クラスの文化祭メンバーに選ばれてしまった。志願者が少ないため、「どうせ暇だろ」と教師から押し付けられたのだ。断ることも出来ず、まさかこんな面倒な仕事だと思わずにそのまま頷いてしまった。
主にやることは、企画設計、許可取り、計画作成など多岐にわたる。メンバーは四人いるため、そこまでの重労働ではないのだが、部活動や委員会など、組織に入ったことのないひまりには大変な仕事だった。
文化祭を月末に控えているため、そろそろ本格的な準備に移行しなければならなかった。お化け屋敷の外壁を担う段ボールを、空き教室に集めるために、生徒会室へと鍵を狩りに向かっている。
自教室からは少し離れた、旧校舎の三階に生徒会室はあった。
扉は伝統を感じさせる古めかしさで、ガラスにはテープが張られている。扉の下からは光が漏れており、誰かが会話をしているのが聞こえた。不在ということは無いだろう。
ひまりは丁寧に二階ノックしてから「失礼します」と言って扉を開いた。
「どうぞ」と、女性の声が聞こえた。
中には男性が二人、女性が一人いた。そのまま部屋へと入っていく。
すると、奥から新たに男性が現れた。彼は現生徒会長なのだが、ひまりはその顔をどこかで見たことがあった。ずっと昔に会っていたような。
彼の顔を見つめる。
整った顔立ち。きりっとした目に、高い鼻、センターで分けられた髪。校内外でイケメンと話題なだけあって、テレビドラマで見かけてもおかしくないくらいの顔立ちだった。
「どうかしたのかい?」
「あ、いえ。どこか出会ったことがあるかもって思ったんです。気にしないでください」
「そっか」
にこっと笑った。
彼はひまりに近寄る。気づけば手を伸ばせば触れられるような距離にいた。
「それで、何の用かな?」
「あ、あの。空き教室の鍵を借りたくて」
「了解、そこにあるから取っていっていいよ」
口角を上げて笑った。しかしその目はひまりを捉えていた。何かを覗かれている感覚がして、背筋に寒気が走った。鳥肌が立った。気持ちが悪かった。
目を逸らすように、言われた場所にある鍵を手に取った。
「それよりさ」
「は、はい……」
「キミ、名前なんて言うの?」
薄ら笑いを浮かべて、さらにひまりに近寄った。その笑みが、その態度が、ひまりには本当に気持ち悪く思えた。しかし彼は先輩であり生徒会長であるため、失礼な態度を取るわけにはいかない。
「高木、ひまりです」
「高木ひまりちゃんね。聞いた通りだね。俺は船山だよ。よろしくね」
「よ、よろしくお願いします……」
頭を下げて、足早に生徒会室から立ち去った。
その品定めをしつつ、舐めまわすような視線に耐え切れなかった。直感で、彼は近づいてはならない人物だと察知した。
教室へ帰る途中、ひまりは彼のことを思い出した。
船山は生前、「高木ひまり」の彼氏だった人物だった。容姿だけでみれば、高木ひまりとは釣り合うだろう。しかし性格だけは不釣り合いなほどに歪んでいる。彼の態度が全てを物語っていた。それは幼稚園時代、周囲を見下していたとある少女と同じ目をしていたから、ひまりにはよく分かった。
つまり、彼はそういう人間だと。
今は昼休み。ひまりは生徒会室へと向かっていた。
ひまりはあろうことか、クラスの文化祭メンバーに選ばれてしまった。志願者が少ないため、「どうせ暇だろ」と教師から押し付けられたのだ。断ることも出来ず、まさかこんな面倒な仕事だと思わずにそのまま頷いてしまった。
主にやることは、企画設計、許可取り、計画作成など多岐にわたる。メンバーは四人いるため、そこまでの重労働ではないのだが、部活動や委員会など、組織に入ったことのないひまりには大変な仕事だった。
文化祭を月末に控えているため、そろそろ本格的な準備に移行しなければならなかった。お化け屋敷の外壁を担う段ボールを、空き教室に集めるために、生徒会室へと鍵を狩りに向かっている。
自教室からは少し離れた、旧校舎の三階に生徒会室はあった。
扉は伝統を感じさせる古めかしさで、ガラスにはテープが張られている。扉の下からは光が漏れており、誰かが会話をしているのが聞こえた。不在ということは無いだろう。
ひまりは丁寧に二階ノックしてから「失礼します」と言って扉を開いた。
「どうぞ」と、女性の声が聞こえた。
中には男性が二人、女性が一人いた。そのまま部屋へと入っていく。
すると、奥から新たに男性が現れた。彼は現生徒会長なのだが、ひまりはその顔をどこかで見たことがあった。ずっと昔に会っていたような。
彼の顔を見つめる。
整った顔立ち。きりっとした目に、高い鼻、センターで分けられた髪。校内外でイケメンと話題なだけあって、テレビドラマで見かけてもおかしくないくらいの顔立ちだった。
「どうかしたのかい?」
「あ、いえ。どこか出会ったことがあるかもって思ったんです。気にしないでください」
「そっか」
にこっと笑った。
彼はひまりに近寄る。気づけば手を伸ばせば触れられるような距離にいた。
「それで、何の用かな?」
「あ、あの。空き教室の鍵を借りたくて」
「了解、そこにあるから取っていっていいよ」
口角を上げて笑った。しかしその目はひまりを捉えていた。何かを覗かれている感覚がして、背筋に寒気が走った。鳥肌が立った。気持ちが悪かった。
目を逸らすように、言われた場所にある鍵を手に取った。
「それよりさ」
「は、はい……」
「キミ、名前なんて言うの?」
薄ら笑いを浮かべて、さらにひまりに近寄った。その笑みが、その態度が、ひまりには本当に気持ち悪く思えた。しかし彼は先輩であり生徒会長であるため、失礼な態度を取るわけにはいかない。
「高木、ひまりです」
「高木ひまりちゃんね。聞いた通りだね。俺は船山だよ。よろしくね」
「よ、よろしくお願いします……」
頭を下げて、足早に生徒会室から立ち去った。
その品定めをしつつ、舐めまわすような視線に耐え切れなかった。直感で、彼は近づいてはならない人物だと察知した。
教室へ帰る途中、ひまりは彼のことを思い出した。
船山は生前、「高木ひまり」の彼氏だった人物だった。容姿だけでみれば、高木ひまりとは釣り合うだろう。しかし性格だけは不釣り合いなほどに歪んでいる。彼の態度が全てを物語っていた。それは幼稚園時代、周囲を見下していたとある少女と同じ目をしていたから、ひまりにはよく分かった。
つまり、彼はそういう人間だと。