窓の開いた教室。窓際の席で肘をついて外を眺めていると、不意に秋を感じた。
 澄んだようで少し冷たい空気、葉は色づいていないものの落ち葉が地面に見え始め、冬へと向かう準備をしている。そんな自然が秋を薫らせるのだろう。
 その時間はホームルームの予定なのだが、教室にはまだ教師が来ていなかった。そのため、教室はまるで休み時間のように騒がしい。
 そしてチャイムから五分ほど遅れて教師が来た。それを見た生徒は一斉に席に着き始める。
 教師が教卓に座ると、学級委員を呼び出して何やら相談をし始めた。いかにも真面目そうな女子生徒だった。
 その学級委員は教壇に上がり、教師は自分の出る幕ではないと言いたげに、教室を後にした。
 学級委員は黒板の右端に、大きく「文化祭」と書いた。
 そういえば来月には文化祭が控えていたと思い出す。ひまりは机に伏せていた身体を起こした。ひまりは高校の文化祭というものに少なからず興味があった。
 生前、ネットを漁っていれば必ずと言っていいほど出てくるのは、文化祭でダンスを踊ったり、熱唱したり、ヲタ芸をする高校生の動画だった。自分とは違う世界の人間がそういうことをするのは分かっているのだが、せっかく高校に来たのだから一度くらいは見ておきたいと思っていた。
 学級委員は黒板に「候補」と書いてから、声を張って言った。
「皆さんには、このクラスの出し物を考えてほしいです。近くの人と考えてください」
 機械のようにそう言って、学級委員は自席へ戻った。
 その十分間は、教室が盛り上がりを見せていた。ひまりにとって苦痛な時間が過ぎた後、学級委員が教壇へと戻る。
「何かいい案はありませんか」
 その問いに様々なものが寄せられた。その一つ一つを、学級委員が丁寧に黒板に書いていく。字は曲がりくねり、普段の授業で教師がどれだけ上手く字を書けているのかが分かる。
 そうしてニ十個ほどの候補が集まった。お化け屋敷やクレープ屋、メイド喫茶などどれも当たり障りのないものばかりだ。
 その後、多数決にてお化け屋敷に決まった。
 どうやらあと三週間もすれば、この教室は廃病院になるらしい。