「本当に大丈夫なの?」
「うん、大丈夫だよ」
「無理だったら帰ってきていいからね」
「分かったよ」
 玄関で靴を履きながら、母親は心配そうに話しかけた。
 足元にはうち履きが置かれていて、ひまりの背中には青い学生鞄が担がれていた。白のブラウスに、胸元の真っ赤なリボン、青を基調としたスカート。そして母親によって整えられた短めの髪。ひまりは中学生だった。
 靴を履き終えると、立ち上がって母親の方を振り返った。
「大丈夫なのね?」
「心配しないで。やばかったら戻ってくるから」
「その言葉を聞いて安心した」
「なにそれ」ひまりは笑って言った。
 そしてもう一度リボンを真っ直ぐに直し、スカートの裾を伸ばして皴を取った。それから母親の顔を見た。最大限の微笑みを向けて、手を振った。
 まるで家に引きこもったままの自分に別れを告げるように。

「――行ってきます!」