その日の夜、ひまりは「高木ひまり」の夢を見た。
 まだ生まれ変わる前のことだ。家の前から見える「高木ひまり」を羨んでいた。誰よりも恵まれていて、苦労なんてしたことがないのだろう。そう思っていた。
 夢に見た高木ひまりは、高校生の姿をしていた。モデルのような体型で、艶のある髪、整ったパーツに透き通る肌。今にして思えば女性の憧れのような存在だった。
 しかし今の自分はどうだろうか。顔は悪くないのかもしれないが、なんとかお世辞でどうにか可愛いと呼べる程度だ。到底「高木ひまり」には及ばない。
 それは彼女だからできたのだ。所詮、「秋村翔太」には「高木ひまり」になることなんてできやしない。
 それどころか、約束されたはずの幸せな家庭すら手に入れられない。
 自分の知る「高木ひまり」は両親に愛されて育ったはずだ。父親が離婚することなんて無かった。母親がシングルマザーになることもなかった。苦労をすることも無かった。
 ……全部、自分のせいなのだ。