この青く澄んだ世界は希望の酸素で満ちている




「心配しなくても大丈夫。
 彩珠(あじゅ)が彩珠のお母さんから着替えを受け取るときは
 俺は木の陰にでも隠れてるからさ」


 隠れる、木の陰に。


 空澄(あすみ)がそう言ったのは。

 たぶん。
 空澄の気遣い。


「それまでは俺も彩珠とベンチ(ここ)に座って
 彩珠のお母さんのことを待ってる」


 空澄はそう言うと。
 今まで私が座っていたベンチに座り。
「彩珠も早く座りなよ」
 そう言って。
 空いているベンチのスペース。
 そこを手で軽くポンポンとしている。



 そんな空澄に引き寄せられるように。
 再び座る、ベンチに。

 
 そのとき。
「失礼します」
 そう言ってしまい。

 それを聞いた空澄は。
「『失礼します』って、なんだよ。
 今まで彩珠が座ってたところなのに」
 とクスッと笑われてしまった。


「優しいね、空澄は」


 そんな空澄が。
 とても温かく感じて。

 気付いたら。
 そう言っていた。


「彩珠にそう言ってもらえると、すげぇ嬉しい。
 ただ、俺の優しさは誰にでもってわけじゃないけどな」


 空澄はそう言って。
 見せた、無邪気な笑顔を。


 その笑顔は。
 朝日に負けないくらいキラキラと輝いていて。
 私には眩し過ぎるくらいだった。





 それから少しして。
 受け取った、着替えを。
 お母さんから。





 お母さんが公園(ここ)を出て。
 戻ってきた、木の陰に隠れていた空澄(あすみ)が。

 そのとき。
 言ってくれた、空澄は。
「優しそうなお母さんだな」と。



 褒めてくれた、空澄が。
 お母さんのことを。


 そのことが。
 ものすごく嬉しくて。

 言った、私も。
 お母さんのことを。
「うん。優しいよ」と。


「じゃあ、そろそろ行こうか」


 なぜだろう。



 空澄にそう言われて。

「うん」

 している、素直に返事を。


 いた、そんな自分が。





 行く、空澄(あすみ)の家に。

 その途中。
 コンビニに寄り。
 買った、必要なものを。


 そしてコンビニを出て。
 再び歩き始めた、空澄の家へ向かって。







 今は空澄だけが暮らしている空澄の家。

 行く、そこに。


 そのことは。
 思わない、何も。

 それは。
 なる、噓に。



 だけど。
 不思議なことに。
 している、少しだけ楽しみに。
 いる、そんな自分が。

 その理由。
 それは、よくわからない。





 どちらにしても。

 提供してくれる、身体を休めるところを。

 そんな空澄に。
 思った、改めて。
 心から感謝をしようと。



 今度。
 しようかな、お礼に。
 ファミレスでご馳走でも。





 着いた、空澄(あすみ)の家に。



 目の前にした、実際に。
 空澄の家を。


 そのとき。
 した、実感を。

 来たんだ、本当に。
 空澄の家に、と。





 そう感じながら。
 空澄に案内してもらい。
 入った、ダイニングルームに。


 そうして。
「適当に座って」
 そう言ってくれる空澄に。
「ありがとう」
 そう言い。
 座る、ダイニングテーブルの席に。

 そのあと。
 座る、空澄も。





 時刻は七時を回ったところ。

 私と空澄(あすみ)は。
 いろいろな話をしながら。
 食べている、コンビニで買ってきた食べ物を。





 そうしているとき。
 思った、不思議だと。



 溜まっている、睡眠不足からくる疲労が。

 それなのに。
 食べて飲んで話をしている。
 空澄と一緒に。


 どこに残っているのだろう。
 そんなエネルギーが。





「そうだ、
 彩珠(あじゅ)の部屋は
 一室、空きがあるから、そこに」


 空澄(あすみ)が言うには。
 その空き部屋は。
 来客用として使用しているとのこと。



 そうして。
 空澄は。
 案内してくれる、来客用に使用している空き部屋に。

 そのため。
 私と空澄は。
 片付け始める、テーブルの上を。










 片付けが終わり。
 私と空澄は部屋へ。


 空澄の部屋。
 来客用に使用している空き部屋。

 二部屋とも二階とのこと。







 部屋の前に着き。
「ここが彩珠の部屋」
 空澄はそう言って。
 開けてくれる、ドアを。


「自由に使って」
 そう言ってくれる空澄。

 親切な空澄に。
「ありがとう」
 そう言って。
 入る、部屋の中に。





 その瞬間。
 目に飛び込んできたのは。
 森の中にいるような癒された空間。


 家具は木製。

 カーテンやシーツやラグマットなど。
 それらは全体的に緑色。



 できる、過ごすことが。
 こんなにも素敵な部屋で。

 それは、なんという至福の時。





 * * *


「さっ、寝よう」


 寝る準備を済ませ。
 ベッドに横になる。



 その瞬間。
 馴染んでいく、身体が。
 マットレスに。


 その寝心地の良さに。
 抜けていく、スーッと。
 心と身体の疲れが。





 この部屋は。
 溢れている、癒しに。


 心の酸素が豊富で。
 できる、感じることが。
 安らぎを。












 それは。
 私が住んでいる家とは真逆で。

 家……というより。
 お父さん、なのだけど。







 家にいる、お父さんが。

 そうすると。
 心の酸素は全くなく。
 充満している、心の二酸化炭素が。


 だから。
 心の中に二酸化炭素が溜まり。
 心が酸欠状態に。



 それは。
 辛くて苦しくて。

 もがいている。
 心の中で。





 だけど。

 もがいても、もがいても。

 治まるどころか。
 深くて暗い海の中にいるような。

 襲いかかってくる、そんな感覚が。


 それは、とてつもない恐怖。



 そして。
 お父さん。
 そんな恐ろしい魔物。

 襲いかかってくる、それが。


 その度。
 現れてくる、心の中に。
 あの辛さと苦しみと恐怖が。










 って。

 ダメ。
 そんなことを思い出しては。


 空澄(あすみ)が貸してくれた素敵で素晴らしい部屋にいるのに。





 これからのことは。
 わからない、全くといっていいほど。



 だけど。
 少なくとも今は。
 できている、過ごすことが。
 心の酸素が豊富な部屋で。


 だから今は。
 したい、感謝を。
 そのことに。





「……ん……」


 閉じていた視界。

 広がっていく、少しずつ。


 している、ぼーっと。
 意識が。





 どうやら。
 していた、熟睡。



 溜まっていたんだ、よほど。
 睡眠不足からの疲労が。


 だけど。
 思った、すぐに。
 それだけではないと。

 この部屋の心地良さ。
 それも私の睡眠の質を上げてくれたのだと。





「今、何時だろう」


 そう思ったとき。
 入った、目に。
 部屋の壁にかかっている丸い時計が。

 時刻は十五時を回ったところだった。


「そういえば、空澄(あすみ)は……」


 まだ眠っているだろうか。


「とりあえず、
 起き上がって着替えよう」


 ぼーっとしていた頭や身体。
 してきた、スッキリと。



 そうして。
 着替えを済ませ。
 部屋を出て。
 入る、洗面所に。


 そして。
 歯磨き、洗顔など。
 それらを済ませ。
 出た、洗面所を。


 
彩珠(あじゅ)


 そのとき。
 空澄の声が。



 空澄は。
「今、大丈夫か」
 そう訊いたから。
「大丈夫だよ」
 そう返答した。


 そうしたら。
 言った、空澄は。
「それならダイニングルームに来いよ」と。

 なので。
 向かう、空澄と一緒に。
 ダイニングルームへ。