お母さんと。
している、メッセージのやりとりを。
思った、そのときに。
やっぱり。
帰りたくない、家に。
お父さんがいるから。
だから。
送る、メッセージを。
お母さんに。
【しばらく友達の家に泊めてもらうから。
友達にはOKをもらっているよ】
そういうふうに。
そう送ったものの。
ない、本当は。
泊まるところは。
だけど。
心配させたくない、お母さんのことを。
だから。
送った、事実ではないメッセージを。
私のメッセージを確認して。
思った、お母さんは。
私の友達に悪いのではないかと。
そんなお母さんのことを説得して。
もらった、なんとか。
お母さんから許可を。
「……なんか……
すごく身体が重い」
キリがついた、お母さんとのメッセージのやりとり。
その瞬間。
襲ってくる、異常なくらいの睡魔が。
昨日の朝。
そのときから。
していない、一睡も。
それだからだろう。
限界がきた、身体に。
今は。
座っている、ベンチに。
眠ってしまおうか、このまま。
もともと。
ない、泊まるところは。
どのみち。
しばらく過ごすことになる。
公園で。
眠る、ベンチで。
とはいっても。
幸い、明るい時間帯だけのこと。
夜は。
過ごす、『心が呼吸できる世界』で。
だから。
しない、危険な思いは。
……と思おうとしているだけ、なのかな。
本心は。
思っていない、少しも。
そんなこと。
明るい時間帯。
それだからといって。
眠る、ベンチで。
それは。
少し危険なのではないか。
仮に。
危険ではないとしても。
降っている、雨が。
そのときは、どこで過ごすのか。
今日は晴れているからいい。
だけど。
雨の日は。
過ごす、ベンチで。
いかない、そういうわけには。
そう考えると。
出てくる、いろいろな問題点が。
だからといって。
ない、他に眠れそうな場所も。
山積み、問題点は。
だけど。
眠らないと。
倒れてしまう、このままでは。
眠る、ベンチで。
そのことは。
抵抗がある、ものすごく。
だけど。
背に腹は代えられない。
仕方がない。
こうなったら。
勇気を出して。
眠ることにしよう、ベンチで。
「彩珠……?」
眠る、ベンチで。
決めた、そのことを。
そう覚悟した。
そのとき。
声がした、正面から。
強い、眠気が。
だから。
顔は下を向いていて。
見えていない、相手の顔は。
だけど。
わかる、はっきりと。
誰なのか。
声の正体は。
そう思いながら。
上げる、顔を。
「……空澄……」
やっぱり。
声の正体。
それは空澄だった。
「どうした、
家に帰ったんじゃなかったのか」
空澄は。
している、少しだけ驚いた表情を。
「……家に居たくなくて。
空澄はどうしてここに?」
空澄は違う道を歩いて行ったはず。
「寄り道。
早朝に歩くのって気持ちいいからさ」
空澄はそう言いながら大きく伸びをしている。
「確かに。
気持ちいいよね」
早朝に。
歩く、外を。
それは。
気持ちいい、ものすごく。
今日。
そう感じた、しみじみと。
「なぁ、彩珠」
本当に。
気持ちいい、早朝。
そう感じていると。
呼んだ、空澄が。
私の名前を。
「家に居たくないのなら、
来いよ」
来い、って?
どこに?
「俺の家」
今。
何て言った?
言われたような。
大胆なことをサラッと。
「……空澄?」
それとも。
聞き間違い?
「うん?」
「今、何て……」
だよね。
そうだよね。
きっと聞き間違い。
うん。
きっとそう。
「俺の家に来いよ、って」
聞き間違いではなかった‼
「空澄の家にっ⁉」
突然の空澄の言葉。
そのことに驚き過ぎて。
何て言えばいいのか。
「そんなっ、
だって、ご家族の方いらっしゃるでしょっ?」
そう思いながらも。
できた、なんとか。
言葉にすることが。
泊まる、私が。
空澄の家に。
そうしたら。
申し訳ない、空澄のご家族に。
そう思っているのは本当だから。
「あぁ、
それなら大丈夫だ」
大丈夫?
それは、どういう……。
「今、家族は海外にいる。
今年の四月から仕事の都合で。
ただ、俺は引っ越したくなかったから、
そのまま地元で暮らしてるけど。
まぁ、一年後には戻ってくるから、
また一緒に暮らせるけどな」
空澄……。
それはそれで、問題なのでは……?
年頃の男子の家に。
おじゃまする、年頃の女子が。
そういうのは。
こういう場合。
どう返答するのが正解なのだろうか。
せっかく。
言ってくれている、親切に。
空澄が。
だから。
お言葉に甘えて。
『お願いします』
いいのだろうか、そう言った方が。
って。
違うか、やっぱり。
良いわけがない。
本当に甘えて。
空澄の親切な気遣いに。
「彩珠、いつまでベンチに座ってるんだよ。
寝ないと身体もたないぞ。
俺も眠いから早く行こう」
いいのだろうか、おじゃまして。
空澄の家に。
迷っている、その返答に。
そう思っている間にも。
空澄は少しだけ歩きかけていた。
「あのっ、
私、まだ何も言ってな……」
「いいから。
早く家に帰って、くつろぎたい」
私が言いかけた言葉。
それが言い終わる前に。
空澄はそう言い。
歩きかけていた方向。
そこから私の方へ向き直り。
歩いてくる、私のところに。
私の目の前に来た空澄。
空澄は私の腕を掴み。
「立てるか」
そう言って。
引き上げた、やさしく。
私のことを。
「あのっ」
「どうした?」
「公園で
お母さんから着替えを受け取ることになってるの」
泊まる、友達の家で。
そうすると。
必要になる、着替えが。
お母さんとのメッセージのやりとりで。
そう送られてきた、お母さんから。
本当は。
泊まるわけではない、友達の家に。
だけど。
そういうことにしている以上。
受け取らないわけにはいかない、着替えを。
だから。
受け取る、着替えを。
お母さんから。
した、そういうことに。
「そうなのか。
それなら、俺も一緒に待つ」
空澄はそう言い。
離した、そっと。
掴んでいる私の腕を。
「そんなの悪いよ」
『家に来て』
そう言ってくれたり。
『一緒に待つ』
そう言ってくれたり。
良くしてもらえる、こんなにも。
空澄に。
私は。
できていない、何も。
空澄に。
「全然。
全く悪くない。
むしろ彩珠と一緒に待ちたい」
それなのにっ。
そんな言葉をっ。
空澄っ⁉
今の言葉。
それは、どういうふうに受け取ればいいのだろうか。
「心配しなくても大丈夫。
彩珠が彩珠のお母さんから着替えを受け取るときは
俺は木の陰にでも隠れてるからさ」
隠れる、木の陰に。
空澄がそう言ったのは。
たぶん。
空澄の気遣い。
「それまでは俺も彩珠とベンチに座って
彩珠のお母さんのことを待ってる」
空澄はそう言うと。
今まで私が座っていたベンチに座り。
「彩珠も早く座りなよ」
そう言って。
空いているベンチのスペース。
そこを手で軽くポンポンとしている。
そんな空澄に引き寄せられるように。
再び座る、ベンチに。
そのとき。
「失礼します」
そう言ってしまい。
それを聞いた空澄は。
「『失礼します』って、なんだよ。
今まで彩珠が座ってたところなのに」
とクスッと笑われてしまった。
「優しいね、空澄は」
そんな空澄が。
とても温かく感じて。
気付いたら。
そう言っていた。
「彩珠にそう言ってもらえると、すげぇ嬉しい。
ただ、俺の優しさは誰にでもってわけじゃないけどな」
空澄はそう言って。
見せた、無邪気な笑顔を。
その笑顔は。
朝日に負けないくらいキラキラと輝いていて。
私には眩し過ぎるくらいだった。
それから少しして。
受け取った、着替えを。
お母さんから。
お母さんが公園を出て。
戻ってきた、木の陰に隠れていた空澄が。
そのとき。
言ってくれた、空澄は。
「優しそうなお母さんだな」と。
褒めてくれた、空澄が。
お母さんのことを。
そのことが。
ものすごく嬉しくて。
言った、私も。
お母さんのことを。
「うん。優しいよ」と。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
なぜだろう。
空澄にそう言われて。
「うん」
している、素直に返事を。
いた、そんな自分が。