「……そんな感じで私は今ここにいます。
私の話はこんな感じです」
終えた、話は。
話す、辛くて苦しいことを。
それは。
心が締め付けられ。
なってしまう、苦痛な気持ちに。
それでも。
話すことができたのは。
みんなが温かく見守ってくれていたから。
そんなルームメイトに感謝の気持ちでいっぱいになった。
「そうだ、
こうして同じ部屋になることができたのも何かの縁。
お互い、下の名前で呼び合うことにしないか」
全員、話し終えた。
そのタイミングで。
そう言った、神倉さんが。
「まぁ、呼び方が全てではないけどさ、
下の名前で呼んだ方が親しみやすいというかさ」
神倉さんの言葉に。
那覇、佐穂さん、鈴森くん、私は。
大きく頷き賛成した。
こうして私は。
神倉凪紗さんのことを凪紗。
佐穂心詞さんのことを心詞。
鈴森響基くんのことを響基。
そして。
那覇空澄のことを……空澄。
そう呼ぶことに。
……空澄……に関しては。
小学生の頃から。
『那覇』
そう呼んでいた。
だから。
『空澄』
慣れない、そう呼ぶことが。
それだからか。
なんだか変な感じがする。
「それじゃあ、
改めてよろしくな」
ある、違和感が。
『空澄』
そう呼ぶこと。
そう感じていると。
神倉さ……凪紗がそう言った。
凪紗に続き。
私、空澄、心詞、響基も。
「改めてよろしく」
そう言った。
そのとき。
見た、改めて。
空澄、凪紗、心詞、響基のことを。
違う、みんな。
それぞれにタイプが。
ある、みんな。
ちゃんと個性が。
そんなみんなと。
過ごす、同じ部屋で。
それは。
嫌ではない、全く。
それどころか。
感じる、少しだけ楽しみにも。
どうなるのか、これから。
わからない、それは。
だけど。
このルームメイトとなら。
過ごすことができる。
お互いを思いやりながら。
家庭や学校。
それらの環境に苦しめられ。
限界になってしまった、精神状態が。
そんな私でも。
この部屋にいるときは。
なれる、心穏やかに。
それは。
空澄、凪紗、心詞、響基のおかげ。
みんなには。
感謝している、ものすごく。
現実の世界に戻り。
「また今夜」
私たち五人はそう言い合って。
帰って行く、それぞれの家に。
「彩珠」
そのとき。
呼んだ、空澄が。
私のことを。
『彩珠』
呼ばれる、空澄から。
下の名前で。
そのことは。
まだ慣れない、やっぱり。
……というか。
なんだか照れくさい。
そんな気持ちになる。
「方向、同じだよな。
途中まで一緒に帰ろう」
空澄の言葉に。
「うん」
そう返事をした。
「いいな、空って」
歩いている、ゆっくりと。
空澄と二人で。
そんなとき。
そう言った、空澄が。
空を見上げながら。
「空の表情を見るの、
ほんと好き」
言った、空澄は。
『空の表情』と。
「人もさ、いろいろな表情があるだろ。
それと同じで空にも表情があると思うんだ」
今の空澄。
追いかけている、純粋に好きなものを。
している、そんな子供のような表情を。
「晴れ、曇り、雨、雪、
どんな天気でも、
そのときによって微妙に違う」
そのあとも。
しばらく空澄の話は続き。
聞いているうちに。
湧いてきた、興味が。
見る、空の表情を。
そのことに。
「あっ、
俺、こっちだから」
空澄の話。
興味があり。
楽しかった、ものすごく。
それだからか。
あっという間だった、時間が経つのは。
示した、空澄は。
私が帰る道と違う道を。
「また今夜」
私と空澄はそう言い合い。
歩き出す、お互いの帰り道を。
「空澄」
無意識だった。
気付いたら。
呼んでいた、空澄の名前を。
私の声に気付いた空澄は。
振り向いた、穏やかな表情で。
見た、そんな空澄のことを。
そのとき。
なぜか。
した、ドキッと。
「ありがとう」
私がそう言うと。
空澄は。
「なにが?」
そう言って。
している、不思議そうな表情を。
「素敵な話を聞かせてくれて」
そのおかげで。
できた、知ることが。
見る、空を。
そのことの喜びや楽しさを。
「空澄のおかげで
空を見ることに興味が出てきた」
「それは良かった。
彩珠にそう言ってもらえると嬉しいよ」
空澄の笑顔は。
本当に嬉しい気持ちが溢れていて。
その笑顔を見ている私も。
嬉しい気持ちになった。
「この時間に帰れば、
気付かれない、よね」
早朝。
だから大丈夫。
家族全員、寝ているはず。
だけど。
念のため、静か~に……。
そう思いながら。
玄関のドアの前に。
不思議。
入る、自分の家に。
それだけなのに。
なんだろう。
この緊張感と後ろめたい気持ちは。
そう思いながら。
開ける、鍵を。
ものすごく静かに。
鍵は開き。
第一関門突破。
次は。
開ける、ドアを。
音を立てないように。
まずは。
握る、軽く。
ドアノブを。
そして。
ゆっくりとドアノブを傾け。
開ける、そーっと。
ドアを。
あとは。
このまま足音を立てずに自分の部屋に戻れば……。
「……っ⁉」
開けた、ドアを。
半分以上。
そのとき。
入ってしまった、私の視界に。
「こんな時間まで一体どこに行っていたんだ‼
母さんから『友達の家に泊まる』ということは聞いていたが
本当に友達の家だったのか⁉」
玄関のところに。
「それに昨日、
学校に行っていないそうじゃないか⁉
それは、どういうことなんだ‼」
立っていた。
腕組みをした、お父さんが。
怒りからくるのか。
お父さんの声のトーンは怒鳴り気味で。
その表情は。
まるで鬼のよう。
こんなお父さんを目の前にしたら。
恐怖のあまり全身は震えそうになる。
「どっ……どこだっていいでしょ」
だけど。
「それから
学校に行かなかったことだって関係ないでしょ」
いられない、言わずには。
黙ったまま。
したくない、そんなこと。