この青く澄んだ世界は希望の酸素で満ちている




 お父さんに対しての限界。

 真碧(まみ)さん。
 加織さん。
 桃萌(ともえ)さん。
 純菜さん。
 四人に対しての限界。


 それらはピークに達した。





 一度、そうなってしまう。

 そうしたら。
 できない、簡単に修復することは。







 だから。
 休むことにした、学校を。


 確かに。
 そうしたからといって。
 修復される、精神状態が。
 限らない、そうとは。

 だけど。
 思いつかなかった、今は。
 休む、学校を。
 そのことしか。



 学校を休んだ初日。
 見た、私は。
『心が呼吸できる世界』
 そこに繋がる真っ白な光の出入り口を。


 そうして。
 来た、初めて。
『心が呼吸できる世界』(ここ)に。





「……そんな感じで私は今ここにいます。
 私の話はこんな感じです」


 終えた、話は。



 話す、辛くて苦しいことを。

 それは。
 心が締め付けられ。
 なってしまう、苦痛な気持ちに。


 それでも。
 話すことができたのは。
 みんなが温かく見守ってくれていたから。


 そんなルームメイトに感謝の気持ちでいっぱいになった。





「そうだ、
 こうして同じ部屋になることができたのも何かの縁。
 お互い、下の名前で呼び合うことにしないか」


 全員、話し終えた。

 そのタイミングで。
 そう言った、神倉さんが。


「まぁ、呼び方が全てではないけどさ、
 下の名前で呼んだ方が親しみやすいというかさ」


 神倉さんの言葉に。
 那覇、佐穂さん、鈴森くん、私は。
 大きく頷き賛成した。





 こうして私は。



 神倉凪紗(なぎさ)さんのことを凪紗。
 佐穂心詞(みこと)さんのことを心詞。
 鈴森響基(ひびき)くんのことを響基。

 そして。
 那覇空澄(あすみ)のことを……空澄。


 そう呼ぶことに。





 ……空澄……に関しては。

 小学生の頃から。
『那覇』
 そう呼んでいた。


 だから。
『空澄』
 慣れない、そう呼ぶことが。



 それだからか。
 なんだか変な感じがする。



「それじゃあ、
 改めてよろしくな」


 ある、違和感が。
『空澄』
 そう呼ぶこと。

 そう感じていると。
 神倉さ……凪紗がそう言った。


 凪紗に続き。
 私、空澄、心詞、響基も。
「改めてよろしく」
 そう言った。





 そのとき。
 見た、改めて。

 空澄、凪紗、心詞、響基のことを。


 違う、みんな。
 それぞれにタイプが。

 ある、みんな。
 ちゃんと個性が。



 そんなみんなと。
 過ごす、同じ部屋で。

 それは。
 嫌ではない、全く。


 それどころか。
 感じる、少しだけ楽しみにも。





 どうなるのか、これから。
 わからない、それは。

 だけど。
 このルームメイトとなら。
 過ごすことができる。
 お互いを思いやりながら。



 家庭や学校。
 それらの環境に苦しめられ。
 限界になってしまった、精神状態が。

 そんな私でも。
 この部屋(ここ)にいるときは。
 なれる、心穏やかに。


 それは。
 空澄、凪紗、心詞、響基のおかげ。

 みんなには。
 感謝している、ものすごく。





 現実の世界に戻り。
「また今夜」
 私たち五人はそう言い合って。
 帰って行く、それぞれの家に。


彩珠(あじゅ)


 そのとき。
 呼んだ、空澄(あすみ)が。
 私のことを。


『彩珠』

 呼ばれる、空澄から。
 下の名前で。


 そのことは。
 まだ慣れない、やっぱり。

 ……というか。
 なんだか照れくさい。
 そんな気持ちになる。


「方向、同じだよな。
 途中まで一緒に帰ろう」


 空澄の言葉に。
「うん」
 そう返事をした。




「いいな、空って」


 歩いている、ゆっくりと。
 空澄(あすみ)と二人で。

 そんなとき。
 そう言った、空澄が。
 空を見上げながら。


「空の表情を見るの、
 ほんと好き」


 言った、空澄は。
『空の表情』と。


「人もさ、いろいろな表情があるだろ。
 それと同じで空にも表情があると思うんだ」


 今の空澄。

 追いかけている、純粋に好きなものを。
 している、そんな子供のような表情(かお)を。


「晴れ、曇り、雨、雪、
 どんな天気でも、
 そのときによって微妙に違う」


 そのあとも。
 しばらく空澄の話は続き。


 聞いているうちに。
 湧いてきた、興味が。

 見る、空の表情を。
 そのことに。





「あっ、
 俺、こっちだから」


 空澄(あすみ)の話。

 興味があり。
 楽しかった、ものすごく。


 それだからか。
 あっという間だった、時間が経つのは。



 示した、空澄は。
 私が帰る道と違う道を。





「また今夜」
 私と空澄はそう言い合い。
 歩き出す、お互いの帰り道を。


「空澄」


 無意識だった。

 気付いたら。
 呼んでいた、空澄の名前を。



 私の声に気付いた空澄は。
 振り向いた、穏やかな表情(かお)で。


 見た、そんな空澄のことを。

 そのとき。
 なぜか。
 した、ドキッと。


「ありがとう」


 私がそう言うと。
 空澄は。
「なにが?」
 そう言って。
 している、不思議そうな表情(かお)を。


「素敵な話を聞かせてくれて」


 そのおかげで。
 できた、知ることが。

 見る、空を。
 そのことの喜びや楽しさを。


「空澄のおかげで
 空を見ることに興味が出てきた」


「それは良かった。
 彩珠(あじゅ)にそう言ってもらえると嬉しいよ」


 空澄の笑顔は。
 本当に嬉しい気持ちが溢れていて。

 その笑顔を見ている私も。
 嬉しい気持ちになった。





「この時間に帰れば、
 気付かれない、よね」


 早朝。

 だから大丈夫。


 家族全員、寝ているはず。



 だけど。
 念のため、静か~に……。


 そう思いながら。
 玄関のドアの前に。












 不思議。

 入る、自分の家に。

 それだけなのに。

 なんだろう。
 この緊張感と後ろめたい気持ちは。


 そう思いながら。
 開ける、鍵を。
 ものすごく静かに。










 鍵は開き。
 第一関門突破。







 次は。
 開ける、ドアを。
 音を立てないように。





 まずは。
 握る、軽く。
 ドアノブを。


 そして。
 ゆっくりとドアノブを傾け。

 開ける、そーっと。
 ドアを。



 あとは。
 このまま足音を立てずに自分の部屋に戻れば……。