(side 空澄(あすみ)



 走り出してしまった。
 彩珠(あじゅ)が乗せられた車が。


 そのとき。
 ようやく解放された、俺は。
 取り押さえられた状態から。


「あのっ」


 気付いたら。
 かけていた、声を。
 彩珠の親父さんの部下の人たちに。


 彩珠の親父さんの部下の人たちは。
 顔色一つ変えないで。
「なんでしょう」
 そう言った。


「彩珠さんとお会いしたいのですが、
 その機会を設けていただけないでしょうか」


 わかっている。
 ならない、どうにも。
 そんなこと。

 彩珠の親父さんの部下の人たちに。
 こんなお願い事をしても。


 だけど。
 いられなかった、言わずに。
 どうしても。

 どうにかして。
 会いたいから。
 彩珠に。


「それは、お答えできません。
 先生の許可が必要となりますので」


 やっぱり。
 そうだよな。


『先生』

 それは彩珠の親父さんのことだろう。


「……わかりました」


 今は。
 するしかなかった。
 そう返事を。





 俺が。
 これ以上。
 言わない、何も。

 感じたのか、そのことを。


 それだからか。
 彩珠の親父さんの部下の人たちは。
 軽く会釈をした。

 俺も。
 する、会釈を。



 そうして。
 彩珠の親父さんの部下の人たちは。
 自分たちが乗ってきたであろう車。
 そちらの方に行き。
 乗り込んだ、車に。

 車は。
 動き出した、すぐに。