歩いている、しばらく。
そうして。
着いた、私と空澄が夕焼けを見に来た場所に。
ここには。
ない、街灯は。
だけど。
変化している。
空が真っ暗から薄暗く。
だから。
見やすくなってきた、ほんの少しだけ。
外の景色が。
この場所は。
見渡すことができる、広い範囲を。
なので。
できる、十分に見ることが。
朝焼けを。
この景色に感動している凪紗と心詞と響基は。
「あっちもいいよ、行ってみよう」
そう言っている。
そうして。
私と空澄がいるところ。
そこから少し離れた場所。
行った、そこに。
「もうすぐ夜が明ける」
凪紗たちは。
離れている、少し。
なので。
二人きり、私と空澄は。
そんなとき。
聞こえた、空澄の穏やかな声。
空澄の声は。
魔法のよう。
その声に。
癒され。
心が。
穏やかになり。
もらえる、元気を。
包まれている、そんなエネルギーに。
そのとき。
「きれい……」
明けた、夜が。
その景色は。
美し過ぎて。
出た、やっぱり。
自然に言葉が。
夕焼けも。
素敵だった、ものすごく。
そして。
今見ている朝焼けも。
溢れている、魅力に。
「彩珠」
見とれている、朝焼けに。
そのとき。
聞こえた、空澄のやさしい声が。
その声にひかれるように。
見た、空澄の方を。
いつも魅力的な空澄。
そんな空澄が。
より一層、魅力的に。
やさしい朝焼けの光。
包み込んでいる、やさしく。
空澄のことを。
そうすることで。
より輝いている、空澄が。
そんな空澄は。
眩し過ぎて。
できない、直視することが。
そのはずなのに。
目を離す、空澄から。
できない、そうすることが。
「本当だから」
目を離す、空澄から。
そうすることができず。
見つめている、じっと。
そんなとき。
話し始めた、空澄が。
だけど。
本当って。
何がだろう。
「凪紗たちに言った、あの言葉」
あの言葉?
「『特別』って言ったこと」
え。
「好きだから」
それは。
あまりにも突然で。
「俺は彩珠のことが好きだ」
一瞬、わからなかった。
空澄が何を言っているのか。
だけど。
理解した、すぐに。
そのとたん。
ものすごい勢いで。
暴れ出した、心臓が。
そして。
熱くなってきた、顔も。
「彩珠の気持ちは、
いろいろ落ち着いてから教えてくれればいいから」
気遣ってくれている。
空澄が私のことを。
だけど。
必要ないよ。
その気遣いは。
だって。
「……好き」
気付いたから。
「私も空澄のことが好き」
自分の気持ちに。
「……私も、って……」
私が。
伝えた、想いを。
そのことに。
空澄は驚いているようで。
「俺が彩珠に言った好きという意味、
ちゃんとわかってるのか」
そんな空澄の言葉に。
「わかってる」
空澄が私に伝えてくれた。
『好き』
その意味。
わかっているよ、ちゃんと。
そういう気持ちを込めて。
重ね合わせた。
空澄の手の指の間に。
自分の手の指を。
空澄の手指。
感じる、触れると。
やっぱり男子だな。
私よりも大きくて。
しっかりしている、骨格も。
私の行動に。
空澄は。
驚いている、さらに。
見える、そのように。
ただ。
驚いていた、さっき。
そのときの空澄と違うことが。
それは。
空澄は私のことを見つめ。
私の顔に。
空澄が自分の顔を近づけ……。
「彩珠、空澄、
こっちに来た方が、もっとよく朝焼けが見えるぞ」
空澄と私。
二人の顔の距離。
ほんのわずか。
そんなとき。
聞こえた、凪紗の声が。
「今、いいところなのに」
中断した、雰囲気。
それだからか。
ぼやいている空澄。
可愛い、そんな空澄が。
そう思い。
笑う、クスッと。
「なに笑ってるんだよ」
ぼやきの次は。
ふてくされている、少しだけ。
そんな空澄も。
思えた、可愛く。
ふてくされながらも。
空澄は。
笑う、仕方なさそうに。
そうして。
「今、そっちに行く」
そう言い。
行った、私と一緒に。
凪紗や心詞や響基のところに。
朝焼けを見た私たち五人は。
「じゃあ、また夜に」
そう言い合い。
帰って行く、それぞれの家に。
そのとき。
私と空澄は。
残る、少しの時間。
みんなと解散した公園に。
そうして。
座っている、ベンチに。
空澄と手をつないで。
「彩珠、
ちょっとジュース買ってくる」
空澄は。
手を離す、やさしく。
そうして。
立ち上がる、ベンチから。
「私も一緒に行く」
そう言ったけれど。
「そこで待ってて。
オレンジジュースでよかったか」
空澄はそう言って。
向かった、自動販売機へ。
六月の下旬。
今日は晴れている。
だけど。
やっぱりこの時期は。
感じる、蒸し暑さを。
『早朝なのに』
暑い、こういう時間から。
そうすると。
昼間は……。
そう思うと。
してしまう、ぐったりと。
「こんなところにいたのか」
している、ぐったりと。
蒸し暑さに。
そんなとき。
聞こえた、背後から。
聞きたくない声が。
その声は。
込められている、怒りが。
地を這うように。
聞こえた、その声が。
その瞬間。
恐怖で身体が固まってしまい。
できない、逃げることが。
近づいてくる。
確実に。
恐ろしいほどの威圧感。
わかる、はっきりと。
背後からでも。
そして。
放っている、威圧感を。
その人物が私の目の前に。
私はベンチに座ったまま。
その人物は立っている。
なので。
見下ろされている、その人物から。
そういう状態。
そのときの。
その人物の目つき。
それは恐ろしいほどで。
その人物から。
逸らしたい、目を。
そうしたくても。
固まってしまっている、恐怖で。
そのため。
できない、逸らすことが。
その人物は……。
「今まで、どこに居たんだ。
お母さんからは『友達の家に泊まっている』と聞いているけど、
詳しいことも何も言わないで、
いつまでも、よその娘を泊めさせるなんて、
どうせ、ろくな友達じゃないだろ」
やっぱり。
お父さんは。
言わない、悪くしか。
私や私の周りの人たちのことを。
「大切な人のことを悪く言わないでっ」
固まっている、身体が。
恐怖で。
それでも。
声を出す、なんとか。
「まったく。
お前には迷惑かけられっぱなしだ」
聞いていない。
お父さんは。
私の話なんて。
少しも。
「お前は
これ以上、私に苦労をかけさせるな」
嫌だ。
もう。
「……出ていく」
心の限界。
「私、家を出て行く」
満杯で溢れている。
なぜだろう。
『家を出て行く』
言った、その言葉を。
その瞬間。
身体がスッと軽くなり。
可能になった、動くことが。
だから。
ベンチから立ち上がり。
歩き始めた。
お父さんから。
離れる、少しでも遠くに。
そのために。
「何をバカなことを言っているんだ‼
家を出て、どうするというのだ⁉」
追ってくる、お父さんが。
ものすごい剣幕で。
「一人暮らしする」
それでも。
言った、臆することなく。
言いたかった、ずっと。
この言葉。
本当は。
暮らす、お母さんと二人で。
そう言いたかった。
だけど。
巻き込みたくないから。
お母さんのことを。
もう一つ。
正確に言うと。
暮らしたい、空澄とも。
だけど。
そう言うと。
迷惑がかかってしまう、空澄にも。
ただ。
優しい、空澄は。
だから。
『迷惑なんかじゃない』
そう言ってくれるかもしれないけれど。
「お前が一人暮らしなんかできるわけないだろ‼
自分のことも、ろくにできない、お前が‼」
追いつかれてしまった、お父さんに。
そうして。
掴まれた、力強く。
腕を。
「勝手に決めつけないでっ」
それでも。
言い返した、怯まずに。
「とにかく一人暮らしをするなんて許さん‼
いいから家に帰るぞ‼
向こうに車を停めてある」
お父さんは。
私の腕を強く掴んだまま。
引っ張ろうとしている、無理やり。
そうして。
している、連れて行こうと。
停めてある、車が。
そちらの方へ。
「私は帰らないっ‼」
そんな状況でも。
諦めず。
言った、強く。
そうして。
引っ張っている、お父さんが。
その方向と逆の方向へ歩きかける。
「そんな勝手なことが通るわけないだろ‼」
だけど。
お父さんが私を引っ張る力。
その方が勝ってしまい。
取れない、身動きが。
それでも。
もがく、必死に。
なんとかしようと。
「彩珠さん、
御実家に帰りましょう」
もがいている、必死に。
そんなとき。
聞こえた、他の人の声が。
そうして。
その人たちが。
掴んだ、私の腕を。
した、そんな感触が。
見ると。
お父さんは。
離れていた、いつの間にか。
代わりに。
お父さんの部下の武藤さんと北山さん。
二人が私の腕を掴んで。
している、連れて行こうと。
停めてある、車が。
そちらの方へ。
強引ではない、お父さんより。
だけど。
男性二人が連れて行く力。
それは。
できない、抵抗することが。
女子の私では。
「武藤さんっ、北山さんっ、
お願いっ、離してっ」
そう言った、必死に。
「それはできません。
彩珠さん、どうか先生のおっしゃる通りになさってください」
だけど。
離してくれそうにない。
武藤さんと北山さんは。
確かに。
そう、だよね。
無理もない、と思う。
武藤さんと北山さんは。
お父さんの部下。
だから。
仕事として。
している、言う通りに。
お父さんの。
それは。
仕方がないこと。
だけど。
やっぱり嫌。
このまま大人しく連れて行かれるなんて。
「……空澄……」
助けてっ。
空澄っ。