同じ美術部の先輩と駅まで、一緒に帰ることになった。
 先輩は背が高くて物静かな人。
 どこかミステリアスな女性。
 知らない事とか聞くと、優しく答えてくれるけど。

 自分からはあまり話しかけてくれない。
 そんな先輩が、部室の鍵を閉めようとしている私に
今日子(きょうこ)ちゃん、駅まで一緒に帰ろう」
 なんていうから、ビックリしちゃった。

 緊張しちゃう。
 先輩は帰り道、特になにかを話すわけでもない。
 だけど、どこか嬉しそうな顔をしていた。
 私と二人きりになるのは、初めて。

 あっという間に、最寄りの駅に着く。

(あ~あ、今日も先輩と仲良くなれなかったなぁ)

 数分後には、電車が来ちゃう。
 何か、おもしろい話でもしなきゃ……けど浮かばない。

 そんなことを考えていると、通過列車が私たちの前を、猛スピードで駆け抜けていく。
 冷たい風が、私の顔を叩きつける。
 今日は、例年にない寒さ。
 肌に突き刺さるような痛みを感じる。

「はっくしゅん!」

 思わず、くしゃみをしてしまった。
 恥ずかしい。
 
「今日子ちゃん、ひょっとして風邪?」
 先輩が心配して、顔をゆっくり近づける。
 私はチビだから大人と子供みたい。
「あ、大丈夫です……ただのくしゃみだから」
 そう言いかけた時だった。

 先輩が鞄をボトンと下に落とした。
 そして、両手を私の顔に近づける。
「せ、先輩?」
「じっとしてね……」

 冷えきった細い手が、私の頬を覆う。
 だけど、それよりも暖かい……先輩のおでこ。

 先輩は私のおでこと自身のおでこをくっつけて、黙って目を瞑る。
 ビックリした私は、固まってしまう。

「あ、あの……」
「うーん。熱はなさそう」

 そう言うと、ゆっくり私から離れる。

「来週から期末試験だから、ちゃんと身体を大事にしないと、だよ」

 首に巻いていたマフラーを優しくなおしてくれた。

「あ、はい……」

 胸のドキドキが止まらなかった。

「あの、先輩! 来週も一緒に帰りませんか!?」

 これが今の私には精一杯。

「いいよ。私も同じこと考えてた」

 先輩は優しく微笑んでいた。

 私の身体は、火照りっぱなし。
 さっきまで痛く感じた冷たい風が、心地よく感じるほど、熱を帯びている。

「じゃあ、また!」
「うん、またね」


  了