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「ええ。とても」
くすりと笑みを浮かべる彼女に、思わず心臓が高鳴る。……絶世の美女というのは、どこで見ても変わらない美しさを持っているらしい。僕は一つ咳ばらいをして意識を逸らすと、天使の持つ物へと目を向けた。箒を持つ手の反対には、汚れた雑巾が握られている。それは既に使われた後だったようで、彼女はそれを用意していたバケツの縁へと引っ掛けた。その様子に、純粋な疑問が浮き上がる。
「何をしていたんだい?」
「土鳩たちが寝泊まりする場所を掃除していたんです」
「君が?」
「おかしいですか?」
苦笑いを浮かべる彼女に、僕は眉を寄せる。おかしいわけではないが、巫女服を着ていないまま掃除しているのは服が汚れてしまうのではないだろうか。僕はふるりと首を横に振って、否定する。
「いいや。おかしくはないと思うよ」
「何ですか、その含みのある言い方は」
むっと頬を膨らませる天使に、思わず笑みが浮かぶ。可愛らしい反応に満足していれば、天使は小さく息を吐く。
「鳩達は夕方に餌を食べにここへ帰って来るんですよ」
「へえ」
「根倉にもなっているんですよ」と言って空を見上げる少女は、まるで何かに想いを馳せるようで。自然を背景にして佇むその姿に、見惚れてしまう。——気がつけば、僕は「手伝うよ」と声を掛けていた。
彼女の足元に置いてあるバケツにかかっていた雑巾を手にして洗うと、まだ汚れている石畳へと手を伸ばした。白くなった糞に少し尻込みしてしまうが、此処で引いては男が廃る。
「……別に、いいのに」
そう言う彼女の独り言を聞こえていないふりをし、僕は掃除をする手を動かした。少しして、天使も掃除に取り掛かった。もちろん、二度目に会う僕たちに盛り上がる話題があるわけもなく、黙々と時間は過ぎていく。
――どれだけ経っただろうか。
「これくらいかな」
「そうですね」
掃除を終えた天使と僕は、掃除用具を片づけると彼女が用意したらしいブルーシートに腰を下ろした。神社の土は柔らかくて、どこか優しい感覚がする。大きく息を吸い込めば、緑の良い香りが鼻腔を擽る。
「手伝ってくれて、ありがとうございます」
「いや、なに。突然押し掛けて来たのは僕の方だからね。これくらいは当然さ」
嬉しそうに微笑む彼女に、僕も笑みを浮かべる。空は既に天辺を回っており、時間は一時を過ぎているか否かくらいだろう。