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彼が罠を仕掛けているのだと気づいたのは、彼の思う準備が一通り済んでからだった。何をしているのかと首を傾げる僕に、ちゅう秋は説明することもなく淡々と準備を進めていく。スポットライトを鳥居の近くに設置し、公衆電話まで走った彼は帰って来るなり僕の腕を掴んで草むらに隠れた。何をしようとしているのか、ここまで来れば鈍感な僕でも理解できるというもの。
静かに息を潜め、土鳩が集まる場所へと目を向ける。視界が暗闇に慣れているとはいえ、流石に数メートル先の光景までは見えない。逸る気持ちに一歩前へ出ようとした――その瞬間。生々しい肉の裂かれる音が聞こえ、僕は慌ててちゅう秋からスポットライトのスイッチを奪い取ると、スイッチを押した。
照らされる、暗闇。転がる生々しい眼球。流れる夥しい血液。——それを被る、紅い、天使。
「……え」
喉がカラカラに乾き、全身の血の気が引いていく。指先が冷たくなっていき、息はか細く吸って吐いてを繰り返していた。
(どう、して)
「すみません。バレてしまいました」
「……は」
「彼には隠せたようですが、ご友人には上手くいかなかったようです」
すみません、と謝罪をする声に僕は聞き覚えがあった。神社の神主。此処の、神の遣いであるはずの、男。——刹那、カラーンと何かが落ちた音が響き渡った。落とした本人——天使は、朴念仁を見つめ、驚いた顔で唇を震わせる。
「どう、して……」
「すみません」
「……知っていたんですか」
「ええ」
彼女の問い掛けに、頷く朴念仁。そのやり取りを聞いていた僕は、しかし今目の前で起きている事が現実だとは思えなかった。彼女と過ごした日々が、脳裏を過る。そんな楽しかった時間も、笑顔も、泣き顔も……全て、嘘だったと。そう言うのか。震える四肢で必死に立っている僕の横に、ちゅう秋が並び立つ。彼は朴念仁を見つめると、強い視線で彼を睨んだ。
「神主」
「……ええ。自分の罪は自分でわかっています」
彼の言葉に、僕はやっと彼の後ろにもう一人いることに気が付いた。ライトに当たって光るのは、警察の紋章。彼等に寄れば、神主はプレイボーイに手頃な女性をピックアップしてもらい、紹介された女性たちに手を上げていたのだという。プレイボーイにも証言を得ているらしく、神主は逃げる様子もない。——ちゅう秋は無常にも続ける。