79
「君は……愛されたかっただけだったんだな」
「っ」
大きく見開かれた目。ボロボロと流れ落ちて来た涙は、彼女を本物の“女性”に戻しているような気がした。ちゅう秋が呆れたようなため息を吐くのが聞こえる。と、同時に面会の終了時間が迫っていた。ちゅう秋が席を立つ。それに合わせて僕も腰を上げた。
「……同情の余地はあるが、だからと言って大切な友人を傷つけた。それは許される罪ではない。しっかり罪を償って更生することをお勧めするよ」
今まで一度も聞いたことがない、冷たい声で言い放った彼に連れられ、僕は妖女との面会を終えた。最後に見た妖女は、まるで魂の抜けた人形のようで——彼女が憑き物だったのだと理解するには、十分だった。

「ありがとう、ちゅう秋」
「まだ終わっていないよ」
「えっ」
刑務所を後にし、歩き出す彼に支えられながら家路についていた僕は、思わず声を上げてしまった。
「な、何が?」
「何って、憑き物だよ。君に憑いている、悪運」
「へぇえっ⁉」
再び変な声が喉の奥から滑り落ちてくる。あまりにも素っ頓狂な声だったのか、驚くちゅう秋に僕は視線を彷徨わせた。——仕方ないだろう。もう憑き物が落ちたと思っていたのに、それがまだ終わっていないと言われたのだから。笑いを堪えるちゅう秋に口を尖らせつつ、僕は問いかける。
「……どういうことだ?」
「ふふっ。まだ君に絡んでいる悪運は切れきっていないという事さ」
「まだ……?」
首を傾げる僕に、ちゅう秋は静かに頷く。
「——君の原点、土鳩の件があるだろう」
「あっ」
「忘れていた、というわけか」
くつくつと笑う彼に、頬が熱くなっていく。入院生活が思ったより長引いたのだ。しかも入院している間、新しい土鳩殺害事件は起きていない。ちゅう秋も話題に乗せてくることはなかったし、妻は怒っていたのだから聞けるわけもない。つまり、忘れていても仕方がない環境下だったのだ。僕は不貞腐れるように眉間にしわを寄せると、松葉杖だけを支えに前に出た。慌ててついて来たちゅう秋は、僕に何度か謝罪をすると自然に肩を貸してくれた。……その優しさに免じて、今回は許してあげるとしよう。