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僕は礼を告げ、早々に準備を済ませると食卓につく。準備を進めてくれる妻の横顔を見て、ふとちゅう秋との会話が脳裏を過った。
(いやいや。そういう訳ではないし)
そうは思っても、過ぎった思考は中々止まらず。果てには少女——『天使』を思い出すにまで至った。それは自然と自身の妻に重ねてしまい――。
(……やっぱり、違うな)
あの少女に見た、若気だけにあるあの瑞々しい美しさとは違う、清廉で凛々しい横顔。酸いも甘いもを知った彼女は人間的な奥深さを垣間見せるが、天使のような初々しさは見えない。――それもそうだ。一回り以上違うのだから。
(……僕は何を考えているのか)
二人の魅力の違いをまざまざと見せつけられたようで、僕はざわつく心を抑えるように、揃えられた料理へと両の手を合わせた。

翌日。世間では週末の休みが訪れる中、僕は再び取材に出る為の用意を進めていく。時間は朝十時。僕は鞄を持ち、家の中に声を掛けた。
「取材に行ってくる」
「はい、お気をつけて」
にこりと健気に玄関口で笑う妻に笑いかけ、勇む足取りで家を出た。
結局、一晩考えた末に決めたのは、あの天使に会いに行くことだった。無論、初対面のおじさんに彼女が正直に言ったという証拠はない。だが、それでも何か知っている様子の彼女に、話を聞く必要性があると思ったのだ。天使を疑う気はないが、やはり疑わずには居られないのが記者というものである。最悪、彼女が居ないことを覚悟して僕は先へと進んでいく。
昨日行ったばかりの公園を通り過ぎ、住宅をいくつか越えれば、見えてきたのはこの辺りに唯一存在する小さな神社だ。午前中であることもあり参拝客がちらほらと見えるが、その人口は十にも満たない。事前の認識通り、廃れた神社だ。


「こんにちは。いらしたのですね」
――予想に反して、天使はそこにいた。
鳥居の傍。箒を持った彼女は鬱蒼とした木々の下で佇んでいた。
「おや、どうも」
被っていた帽子を取り、小さく会釈する。あの時と同じ黒いセーラー服に身を包んだ彼女は、ふわりと笑みを浮かべた。
「まさかこんなに早くお会いできるとは思ってもいませんでしたよ」
「僕もだよ。てっきりいないものだと思っていたから」
「……いないと思っていて、来たんですか?」
「まあね。でも、よく言うだろう? 信じる者は救われるって」
「なんてね」と笑えば、少女も驚いたように目を見開いて、次いで笑みを浮かべた。
「おかしな人ですね」
「そうかい?」