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僕が考えに至らなかっただけで。自分自身の不甲斐なさに頭を抱える。そんな僕を横目に、ちゅう秋は話を続けた。
「鈍感男の事は放っておくとして。君はかなりの人数の男に手を出していたみたいだな」
「だったら何?」
「楽しかったかい?」
ちゅう秋の場違いな明るい声に、その場が静まり返る。ぴりつく空気は、気のせいではないだろう。
「……何が言いたいのかしら」
「君の事は調べさせてもらったと、言っただろう。幼少期から、今までの事——全て」
「ッ」
言葉に詰まる妖女。ちゅう秋は当たりだと言わんばかりに畳みかけた。
「父親に性的搾取をされていたのだろう? それから逃げる為に、君は家を出た。しかし、金がなかった君は稼ぐ方法を知らなかった」
「……て」
「体を売る事で、快感を金に換える事で生きてきたんだろう? なあ、君は、楽しかったかい?」
「やめてって言ってるでしょッ‼」
バンッと机が音を立て、妖女の手が叩きつけられる。激しい怒りをあらわにした彼女は、今にも食いつかんばかりにちゅう秋を睨みつけている。しかし、ちゅう秋はそれに気づいていながらも、言葉を続けた。
「父親……いや、君にとっては母親の再婚相手の男、というべきか。そんな男に劣情を向けられ続けた。……君は逃げたかったのだろう? 義父の目と、それを向けられる自分自身から」
「……アンタに、何がわかんのよ」
「俺は男だからね。君の気持ちも境遇も、何一つわからないさ」
「さいってい」
「大切な親友を奪おうとしたんだ。それなりの復讐としては妥当だろう?」
飄々と言葉を連ねるちゅう秋に、妖女は観念したのか落ちるように椅子に腰を下ろした。俯く表情は、どこか悲壮感に包まれており、思わず声を掛けたくなってしまう。……それも、ちゅう秋によって止められてしまったのだが。
「……仕方なかったのよ。アイツの……あの男の、獲物を見るような目……気持ち悪い性根を隠すことなく向けてくるその根性が、あたしには理解できなかった。それを向けられる意味も、理由も……」
「それで、木乃伊取りが木乃伊になった、と」
「十四よ? その時のあたし。子供も子供。生きていくのに必死だったのよ」
俯き、さめざめと泣く彼女に、僕は息を飲む。今まで見て来た彼女の中で、一番人間らしい姿だった。