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このままでは埒が明かないと察し、僕は彼女たちに正直な事を話した。目星をつけていた人間が犯人ではないかもしれないという事、二度も同じ場所で事件が起きた事でもしかしたら天使の身が危ぶまれる事態になるかもしれないという懸念の事。予想通り僕の言葉を聞いた天使は驚いたが、僕の推理を聞くに一応は納得してくれたらしい。
(変な人間のレッテルを貼られなくてよかった……)
僕はほっと胸を撫で下ろす。すると、黙って話を聞いていた朴念仁が声を上げる。
「それでは、私もお供しましょう」
「「えっ」」
「今日のお務めは終了しましたし」
「一日くらい、神様も許してくれるでしょう」と微笑んだ彼は、「少々お待ちいただけますでしょうか」と頭を下げて本殿の方へと踵を返した。置いて行かれた僕たちは静かに顔を見合わせる。――完全に予想外の出来事だった。
唖然とする僕に、天使が呟くように言葉を紡ぐ。
「……いいんでしょうか」
「……何がだい?」
「私なんかを送ってくださるなんて……」
夢みたい、と呟いた声は聞こえないふりをすることにした。見かけによらず初心でわかりやすい反応をする彼女は、どこからどう見ても立派な“恋する乙女”だった。
「彼自身が行くと言ったんだから、いいんじゃないか?」
「そう、ですよね。そう……そっかぁ……」
言葉の隅々に滲み出る、喜びの声。それは聞いているこっちが恥ずかしくなるほど真っすぐで、純粋で——。
(勝ち目なんか、元からなかったんだなぁ)
そう思うには、十分な要素を持っていた。自嘲気味に笑みを浮かべた僕は、大きく肩を落とすと初めて会った頃の朴念仁を思い出す。幼少の頃から見て来たというのだから、彼等は僕には想像できない程深く、強い絆を持っているのだろう。それこそ、簡単に“好き”と伝えられないほど近くて——遠い存在。
(朴念仁は彼女の事をどう思っているんだろうか)
――否、そんなもの彼女の事を語っている彼を思い出せば、自ずとわかる事だろう。どういう気持ちだろうが、互いに互いを大切に想い合う二人に、僕は自分の想いを静かに心の底へとしまう。それをするのに、不思議と抵抗は一切なかった。

天使を家に送る為、僕と朴念仁、そして天使は彼女の案内によって高架下まで歩いてきていた。僕の家とは神社を挟んで正反対にあるそこは、車通りが多く、通常の夜道とは違う危険で溢れていた。他愛もない話をしながらしばらく歩き続け、着いた先は綺麗なマンションだった。