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次の日の昼。いい加減帰れと追い出された僕は、家に向かって重たい足を引き摺っていた。
(どんな顔をして会えって言うんだよ……)
失恋した、というにはどこか他人事で。しかし確かに痛みを感じたのはこの胸で。歪で、未完成で、そして完成することのない感情を、僕は持て余していた。
「……この感情に名前さえつけられれば、簡単に整理が出来るのになぁ」
そうボヤいても感情が整う訳もない。僕は大きくため息を吐くと家のインターフォンを押した。妻の出迎えを受けた僕は、ちゅう秋が自ら電話してくれた上に二日に渡って僕の状況を伝えてくれていた事を知り、再び自分の不甲斐なさに頭を抱える事になるとは思わなかった。

「そういえば、近くの神社の神主様からお電話がありましたよ」
「神主から?」
「ええ」
頷く妻に、僕は冷や汗が流れるのを感じる。彼女の事は未だ妻に話していない。話していると言えば、彼女が教え子のような存在であるという事くらい。
(あの時は土鳩の事を教えたばかりだったからそう言ったけど、もう時効もいいところか……)
どちらにせよ、変な事を言っていないといいが……。
「……要件は?」
「土鳩の件です。『土鳩が再び襲われた』と」
妻の言葉を聞いた瞬間、僕は勢いよく立ち上がった。重い身体など、どうでもいい。それよりもついさっき聞いた言葉の真偽の方が僕にとっては重要だった。
「ニュースは⁉」
「二度目だからか、簡単にしか取り上げられてなくって……新聞にも、少しだけ載っているそうですが……」
「見せてくれ!」
「は、はいっ」
新聞を取りにパタパタと駆けていく妻。少しして戻ってきた彼女から紙面を受け取った僕は、記事に目を通した。
――事件現場は以前と同じ、神社の少し手前の道路。以前とは逆に位置するそこは、住宅街になっている。そんな住宅街のゴミ捨て場に、捨てられるように置いてあったという。
「……」
「痛ましいですよね……。本当に、どうしてこんなことを……」
「……わからない」
妻の言葉に、僕は頭を振る。男の土鳩への嫉妬心だと思っていたが、どうやら違うのかもしれない。
(今までが嫉妬や気を引くためだとして、告白後にもやる理由はなんだ……?)
確かに諦めないとは言っていたが、だからと言って土鳩を愛する彼女へのアピールとしては些かズレているように思う。
(そんなの、あのプレイボーイがするか……?)