63
「俺は、貴女が好きです」
プレイボーイが跪き、彼女の手を取る。まるでプロポーズのような光景に、僕の心臓がじくりと痛む。天使は彼の告白を正面から受け止めると、ふるりと首を横に振った。
「すみません。私は、恋愛する気はないんです」
天使の言葉は、ここに居る男二人の心に重く圧し掛かった。眼中になどないと言わんばかりの言葉は、刃物となって僕たちの心臓を抉る。しかし、プレイボーイは挫ける事無く言葉を返した。
「どうして? 俺は君が望むのなら結婚も望まないし、束縛だってする気はないよ」
「でも、貴方が見ているのは私の上辺だけでしょう」
「そんな事はありません! それに、僕はただ、貴女の一番美しい瞬間を一番近い場所で見ていたいのです! この神社にも、そう願いを掛けました」
取り付く島もない天使に、プレイボーイは必死に食らいつく。その必死さに何となく自分を重ねてしまい、それを一瞬で壊す。こんなやつと同じだなんて、絶対にお断りだ。——嗚呼、でも。
(……あんなことを言っていたけれど、彼は彼なりに本気だったんだな)
口も素行も悪いが、真っすぐ彼女を見つめる彼の目は嘘だとは思えなくて。僕は固唾を飲んで彼の恋の行方に耳を傾けた。
「どうしてそこまで? 私みたいな人間なんて、探せばいくらでもいるでしょうに」
「いいえ。いいえ、いません」
「そんなことないわ」
「俺はっ! 貴女を初めて見た時から、貴女を手にしたいと、そう願ってきました。一度だけでもいい……泡のように消えてもいい……そう思えば思うほど、この気持ちは強くなっていく。俺はこの気持ちをどうしたらいいかわからない!」
真っすぐ、ハッキリと言い切った彼を、僕は純粋にかっこいいと思った。自分の気持ちを偽らずにぶつける彼の強さ。それは男の僕でも心打たれるものがあった。天使は彼の勢いに押されているのか、面食らったような表情をしていた。初めて見るそんな表情も美しく。
(……綺麗だなぁ)
そう思ってしまうのは、人間の性か、それとも男の本能か。どちらにせよ、僕には過ぎた感情である事は間違いなかった。
「すみません」
「そんな……っ!」
「私は、恋をしてはいけない運命なんです」
次に面食らったのは、こちらだった。責を負ったかのように告げる彼女に、僕とプレイボーイは息を飲む。
「どういう、ことですか」
「それは……言えません」
「何故っ⁉」
「これを覆すことは、誰にも出来ないんです。貴方にも。私にも。……神様にも」