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向かう先は特に決まっていなかったが、見えてきた神社の赤い鳥居に足を止める。用事はなかったが……少しだけ。少しだけ気になって僕は神社へと足を踏み出した。——そこで見えた光景に、僕は息を飲む。
(どう、して……)
抱きしめ合う男女。その二人は、十人が見れば十人が『お似合いだ』と口を揃えるであろう美男美女。男は明るい髪と整った顔を目一杯に使って、女性を抱きしめている。女性と言えば、整った顔を真っ赤に染めている。艶やかな黒髪は風に靡て美しさをより一層際立たせていた。男女——天使と、プレイボーイの姿に、僕は信じられないものを見た気持ちでいっぱいだった。
それもそうだろう。僕からすれば、犯人と愛おしいと思っていた少女が抱き合っているのだから。
「ッ、彼女を離せッ!」
走り出したのは、反射だった。天使を抱きしめる男の肩を強く引き剥がし、驚く天使を背に匿う。驚きに見開かれたプレイボーイの目は、数度瞬きをすると僕の存在を認知したように歪になる。
「またアンタかよ」
「彼女に手出しはさせない!」
「はあ? 何を勘違いしてるか分かんねーんだけど」
心底呆れたとばかりの彼の反応に憤りを感じるが、手を出さないよう必死に堪える。恐怖は既にどこか消えていた。牙を剥くように彼を睨みつけているとその時。背中に感じた引っ張られる感覚に、僕は慌てて振り返った。
「だ、大丈夫かい⁉ 怪我は……」
「あの……大丈夫です」
「そうかい? よかった……駄目だよ、こんなやつに近づいたら」
「余計なお世話だよ、おっさん!」
「ほら!」
そら見たことかと言わんばかりに顔を歪める。しかしそれも、天使の予想外の行動に霧散する。僕の横をすり抜けて前に出た彼女は、プレイボーイと真っすぐ向き合った。驚く彼は――しかし、真っすぐ彼女を見つめ返した。
(……えっ?)
思っていた空気ではない事に気づき、困惑する。どういうことだと天使に視線を向けるが、彼女はふるりと首を横に振った。その行動に、僕は出かけた言葉を飲み込んだ。
「彼との関係は、私自身が決める事ですから」
真っすぐ言ってのける彼女に、唖然とする。――まるで。
まるで、僕が邪魔をしたみたいじゃないか。
(何だよ……どういうことだよ……)
震える指先が答えを知っているようだけれど、僕の心は現実を受け止めたくないとばかりに現実から逃げ惑う。そんな僕にお構いなしに、二人は話始めた。