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店に僅かに響く声で店員を呼べば、先ほどとは違う人の声が聞こえた。どこかで聞き覚えのある声だったが……きっと気のせいだろう。寄って来る男性の姿を見て、僕はそう思う事にした。
昼食にカレーと水を注文し、食後に珈琲を頼む。店員は注文を受けるとカウンターの奥へと戻って行った。その背中を見て、僕は首を傾げる。
(やっぱり、どこかで見たことがあるような……)
――否、見間違いかもしれない。しかし、いや、でも……。
「お待たせいたしました。お冷になります」
「あ、ああ。ありがとう」
「……どうかされましたか?」
「あ、ああ……いや」
ずっと見ていたのがバレたのだろうか。男性の店員がにこりと笑みを浮かべながら問いかけてくる。言い淀んでいた僕を彼は真っすぐ見つめる。その視線に誤魔化すことは難しそうだと理解した僕は、軽く笑みを浮かべ、彼に笑いかける。
「すみません。変な事を言うかもしれませんけど……その、どこかでお会いしたことがありませんか?」
「おや。まさか貴方から言ってくださるとは」
にこにこと笑みを浮かべつつそう告げる彼に、僕はやはりと確信を得た。
(どこかで会ったことがあるんだ)
勘違いではなかった事にほっと息を吐きつつ、僕は思考を巡らせる。会ったことがあるのは確実だ。しかし、どこであったのか。
(スーパー……病院……道端……)
「神社ですよ」
「あっ、そうか、神社か! って、もしかして」
「ええ。あの神社で神主をやらせていただいている者です」
恭しく頭を下げた彼に、心底驚く。まさか神主がこんなところで働いているなんて、誰が思うだろうか。
「どうしてこんなところに……!」
「いやはや。お恥ずかしい話、神社の稼ぎだけでは生活できないんですよ。なので、こうしてアルバイトを」
「な、なるほど」
彼の言葉に僕は驚きつつも納得する他なかった。——昔はまだしも、今現在、僕たち人々の生活に神を信仰する人が少なくなってきているのが影響しているのだろう。恐らく、少し前にかなり景気が良くなったのが原因だとは思う。おおよそ、神頼みをしなくても叶う事が多かったのだろう。しかも少し前に大きな神社が少し先の街に出来たというのだから、こちらの小さな神社など吹けば飛ぶようなものなのかもしれない。
「ちょっとぉ~、聞いてるのぉ~!」
「はいはい。聞いておりますよ」
ふと、考えに浸っていた思考が浮上する。これまた聞き覚えのある声が、聞き覚えのある声に返事をしていたのだ。