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――あれから一か月が経った。暴行事件は公になる事もなく収束し、僕は動くたびに感じていた痛みを感じる事も無くなっていた。
「腹が減ったな」
僕は再会した執筆活動の合間を縫って、神社へと足を運んでいた。あれから、天使の姿は見ていない。神主である朴念仁に聞いたが、彼も彼女の姿を見ていないという。
(何かしてしまったかな……)
もしかして教え子と言ったのが聞こえていたのだろうか。それで、教え子は嫌だからと距離を取った、とか。
「……あるわけないか」
何だかんだハッキリ物事を言う彼女だ。ふざけながらでも伝えてくるだろう。……そう思いたい。僕は気落ちしそうな気持を必死に引き上げるように、俯いていた顔を上げた。よし。今日はどこかゆっくりしたところに入って昼食を済ませ、そのまま執筆作業をしようか。そうと決まれば、まずは美味しそうな茶店を探さなければ。店が立ち並ぶ商店街に向かい、辺りを見回す。八百屋に魚屋、後は肉屋や豆腐屋なんかが、やれ特売だ、やれ増量だと声を上げて客引きをしている。活気の良い空間をのんびりと歩きつつ、ふと見えた茶店に足を止める。
「喫茶店フクロウ……」
(そういえばこの店、天使と来た事があったな)
僅かに思い出される記憶に、僕は惹かれるようにその店へと足を向けた。カランカランと軽い音がし、静かな空気が全身を包む。駆け寄って来る店員に一人だと告げるとあの時と同じように「お好きな席にどうぞ」と言われた。あの時と違うのは、自分の隣に彼女がいない事。そして席を決めるのは僕自身だという事だけ。
どこかくすぐったい様な気分になった僕は、ボックス席を避けてカウンター席へと向かう。カウンターは人があまり埋まっていないのか、二人ほどしか見受けられなかった。
「ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」
「ありがとう」
「失礼いたします」
カウンター席の端に腰かけた僕は、メニュー表を取り出すと中身を見た。一ページ目にはやはり、あの時と変わらず女性受けの良さそうな品物が書かれている。パンケーキは季節が変わったからか栗を使ったものに変わっており、とても美味しそうである。しかし、今日は長居する気で来ているのだ。
(昼食と、それからこれはデザートに頼むとして……よし)
「すみません」
「はい、ただいま」