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頭に膝が叩き込まれ、倒れたところに足が降り下りてくる。何度も何度も。痛みを感じなくなっても、蹴られる体に僕はただただ呻くことしか出来なかった。鼻が痛い。口が鉄臭い。歯が歪んだ音がする。顔を中心にやられているのだろうと気づいた時には、ガンガンと頭痛が脳を揺らしていた。
「意味わかんねぇ事ばっか言いやがって……大人だか何だか知らねぇが俺に説教すんじゃねえよ!」
「ぐっ、ごほっ!」
「くそっ、くそっ‼」
ガンガンと容赦のない蹴りが腹部に叩き込まれる。時折額を強く蹴られ、脳が大きく揺らされる。
(痛い。いたい……!)
地獄のような時間が続き、僕は耐えるように体を丸める。二度、三度……もう何回数えたかもわからない痛みに、意識が遠退きかけたところで猛攻は終わりを告げた。
「はー、はー」
「は……ぅ……」
荒い息に紛れて聞こえる、自分のか細い声。呻き声すら口に出来ない状況に、僕はゆっくりと目を開いた。
(なにが、どうなって……)
「俺に歯向かうからこうなるんだ。お前が悪い。お前がダメなんだ」
「ぅ、ぁ……」
「……チッ」
盛大な舌打ちが聞こえ、僕は視線を男に向けた。僕に殴られた頬を赤く染めた彼は、肩で息をすると踵を返した。遠ざかっていく背中を、落ちていく意識の中で見送った僕は今度はゆっくりと瞼を下ろす。遠くから聞こえる悲鳴は、夢かそれとも――。


ピッ。ピッ。ピッ。
意識を取り戻した僕の耳に聞こえてきたのは、高い機械音。次いで聞こえたのは、誰かのすすり泣く声。徐々に見えてくる視界は霞んでいて、何度か瞬きを繰り返す。
「……ここ、は」
「あなた……!」
聞き慣れた声に、僕は視線を下に向ける。そこに居たのは、目を腫らした妻の姿だった。その後ろでは心肺を測る装置が置かれており、規則的な音を流している。腕から繋がれた管は遠くのパックに繋がっているようだった。
(……病院、か? どうして僕は、こんなところに……)
まるで夢のような感覚。しかしぎゅっと握られる手が、全身に走る痛みが、現実なのだと伝えてくる。僕は記憶を掘り起こそうとする。……確か、犯人を見つけようと外に出て、神社に向かうすがら――。
(——そうだ。プレイボーイに会ったんだ)
明るい髪の男。一見モデルやホストのような出で立ちをした彼と出会って。そして、口論になって……嗚呼、そうか。
「……僕は、近所の人に助けられたのか」
「ええ……道に人が倒れてるって通報があって……」
「……そうか」