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「あらぁ! もしかして神社であった子じゃなぁい?」
「えっ」
「うふふっ、やっぱり!」
(はて。どこかで会っただろうか……?)
僕は盛り上がりを見せる女性に首を傾げた。スタイルの良さを引き立てる真っ赤なハイヒール。ぴっちりとしたタイトスカートは彼女の腰と足の細さを強調している。そして何より、大きく胸元が開いた服は水商売の女性を思わせる。——否、恐らく彼女の職業はその通りなのだろう。染めているのか、少し痛んだ茶髪を揺らしながら上機嫌に話す彼女を見て、僕は記憶の奥底を漁った。
(どこかで会ったような気がするのは確かなんだけど……)
それがどこであるのか、思い出せない。僕は首を傾げ、彼女をまじまじと見つめる。「聞いているの?」と腕に抱き着いてきたのを見て、僕は「あっ」と声を上げた。
(あの時の!)
神主と話をしている最中に、割り込んできたプレイボーイと一緒に居た女性——妖女。男を誘う真っ赤な唇が、まさに同じ形をしている。そう気づいて、僕は気づいた事を後悔した。わかってしまった以上、無視することが出来なくなってしまったのだ。
「……どうも、こんにちは」
「んー、見かけによらずお堅いのねぇ。そんなところも嫌いじゃないけどぉっ」
にこっと笑みを浮かべる妖女。どこまでも夜の世界を思わせる仕草に、僕は一歩退いた。妻と付き合ってからというもの、そういった店には数回しか行ったことがない。しかもそのほとんどが付き合いなのだから、慣れていないのも仕方がないだろう。
(……どうやって抜け出そうか)
豊満な胸を押し付けられ、猫なで声で話しかけられるこの状況に、僕はため息を吐く。……そもそも、一回しか会っていないのに、何故覚えられているのか。商売人の覚えの良さをこれ程恨んだことはない。
「ねぇねぇー、この後ひまぁ? あたしぃ、お客さんにバックレられちゃって暇なのぉ~」
くねくねと全身を揺らし、誘うような視線を僕に向ける。細すぎる四肢は掴めば折れてしまいそうだ。
「すまない、仕事中なもので」
「えー。いいじゃぁん、少しくらい」
「ねっ?」と顔を傾ける妖女。自身を知り尽くしている行動は、確かにそそられるものがあるが、僕としては好印象には映らなかった。彼女を払うように軽く腕を振り、歩き始める。後ろから聞こえるヒール音が、どこか掻き立てるような気持ちにさせられる。