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(調査に戻ろう)
あの天使の笑顔を守るためにも。早く事件解決の糸口を掴まなくては。僕は足を早めて土鳩殺害の最初の事件現場へと向かった。
――だが、どうやら今日は厄日らしい。目の前の人間に、僕は思わず天を仰いだ。
「今度はショッピング行こぉ~?」
腕に絡みついてくる女性を見て、僕は頭が痛くなるのを感じた。……どうしてこんなことになったのか。憎らしいほど美しい空を見ても、答えは下りて来なかった。
「……わかりましたよ」
「やったぁ!」と猫なで声で腕に絡みついてくる女性——妖女。

こうなった原因を説明するには、時を少し遡る事になる。
苛立ちもそこそこに、最初の土鳩事件現場を見に隣町にまで来た僕は、人通りから少し離れた路地裏に入った。事件現場は、とあるバーの裏手に続く路地。そこに土鳩の死体は捨てられるように置かれていたらしい。腐敗した臭いを感じたバーのオーナーがゴミ捨て場に見に行ったのが始まりで、落ちていた土鳩のあまりの惨殺さにバーのオーナーが恐怖に駆られ、警察に通報したことで事件は明るみになったのだとか。とはいえ、被害者が動物……しかも鳩であることもあり、『バーのオーナーへの嫌がらせ』としてその時は片付けられた。まあ、その後違う場所でも起きたことから、その意図がないことは証明されたのだが。
(薄暗いな……それに、湿っぽい)
どこかジメジメした路地裏は、昼間であっても人気がまったくない。しかも、昨日も営業していたのであろう。纏められたゴミ袋や、酒瓶の入ったケースがそこかしこに置いてあり、衛生的とも言い難かった。時折、どこぞで酔いつぶれていたらしい人間とすれ違うが、誰も彼もがまともな目をしておらず、話を聞こうとは思えなかった。
(ここか……)
裏路地の、中央辺り。バーの裏手に来た僕は使い捨てカメラで数枚の写真を撮ると、周囲を見回した。特に何の異変もないそこは、ただただ薄暗い場所だった。他に何か手がかりになりそうなものはないかと用心深く見て回るものの、やはりもう半年以上前の出来事だ。事件の痕跡が残っているわけもない。思った以上に少ない収穫に肩を落とし、僕は路地を後にする。
「きゃっ」
「っと。すみません」
その時。路地から大通りに出る角で、一人の女性とぶつかりかけたのだ。幸い、直ぐに止まったから女性が尻もちをつくなどのことは起きなかった。ハッと顔を上げた女性は驚いたように目を見開き――妖艶に笑う。