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あれから数日後。僕の書いた土鳩の記事が世の中に出始めたのを肌で実感している中、調査を進めようと隣町へと足を運んだ先で、僕は彼と出会った。
「あ、あの時のおっさんじゃねーか」
「君は」
プレイボーイくんじゃないか、と言いかけて僕は止まる。このあだ名は僕しか知らない名前なのだ。彼に言ったところで通じないし、何か言いがかりをつけられても困る。だってこれは僕の健忘症の予防方法なのだから。そんな現実逃避をしつつ、僕は彼を見つめる。彼の腕にはこの前いた女性とは別の女性がくっついていた。——嗚呼、出来ればそのまま通り過ぎてくれればよかったのに。
こちらを見下げるような顔で見上げてくる女性は、やはりというかキャバクラに勤めていそうな風体をしている。水色のワンピース――否、ドレスのようなもの――を着て、染めた髪を綺麗に巻いている。しかし、先日の妖女とは違い、今回はかなり若い女性のようだった。
「……デート中だったかい? すまないね、邪魔したようだ」
「はあ? 冗談きついぜ、おっさん。こいつはただの仕事仲間だ」
「えー。ちょっとぉ、ひどぉい!」
「ハイハイ。悪かったな」
彼女の腰に手を回して引き寄せ、ちゅっと自然な行動で女性の額にキスを落とすプレイボーイに、僕は顔が引き攣る。手慣れた仕草に、僕は悟った。どうやら勝手につけたあだ名は、あながち間違っていなかったらしい。
「そういえば、この間神社で高校生の女の子に話しかけていたのを見たが……彼女は良いのかい?」
「あ? ああ、なんだおっさん。アレも見てたのか」
青年に体を寄り添わせる女性を抱きかかえつつ、彼は僕を見た。その表情はどこか挑戦的で、どこか嘲笑っているような表情をしている。まるで――こちらをおちょくるかのように。
「なあ、アンタって奥さんいるんだってな」
「な、何を」
「あの後調べたんだよ。あんまりにも突っかかって来るから」
彼の言葉に、僕は嫌な予感が心を過る。……こういう時、彼等のような人間との価値観の違いがまざまざと見せつけられるのだ。
「したら既婚者だっていうじゃねーか! びっくりしたぜ、ほんと」
「……それがどうしたんだい」
「つまりさぁ、——アンタのオアイテをするのは、別に彼女じゃなくてもいいんじゃねーの?」
淡々と話す彼に、僕は眉を顰める。……何が言いたいのか、全くわからない。僕は震える声で、青年に問いかけた。