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折角覚悟を決めてくれたのに、最初から全てをへし折ってしまったかと思ったが、どうやらそれは杞憂だったようだ。僕はメモ帳から一枚を千切り取ると、時系列に事件のあらましを書いていく。
「まずは事件のあらましだけれど、こんな感じだ。内容としては、知っての通り土鳩を殺害する以外には特に目立った目的はなさそうに見える。一見愉快犯にも思えるが……、愉快犯と言うには少し不自然な点が多いんだ」
「不自然な点?」
「そう」
もし本当に単なる愉快犯なのであれば、これだけで済むはずがない。愉快犯は自分のやっていることは芸術として扱っている節がある。よくある者としては、一匹だけでは足りないとどんどん数が増えていったり、その凄惨さが過激になっていくのが普通だ。——だが。
「増えていくのは一匹ずつ。しかも、回数が増えることも無い。愉快犯にしては遊ぼうとする気持ちが見えないんだ」
「なるほど……でも、ただのストレス発散の可能性もあるんじゃないでしょうか?」
「いや、それも可能性としては薄いと思う」
「どうしてです?」
首を傾げる天使に、僕はにやりと笑みを浮かべる。
「誰にも見つからない、咎められないストレス発散。そんなものがあるなら、君はどうする?」
「……あっ」
ハッとした様な顔をする天使に、僕は内心愉快で堪らなかった。自分の知識が彼女を驚かせていると思うと、気持ちが上がるのも当然だろう。
──そう。もしそんな都合のいいストレス発散方法があるなら、人間は行動を大きくする。許されているのだと、まだ大丈夫なのだと、思い込んで。
「でも……そうすると、ターゲットとしてはどんな人になるんですか?」
「僕が考えるに、恐らく犯人は……何かの目的のためにやってるんじゃないかな」
「目的?」
首を傾げる彼女に、僕は頷く。
「だから、必要な時に、必要な分だけ殺す。土鳩である理由は……もしかしたら無いのかもしれない」
「土鳩を、何かに利用していると、言うんですか……?」
「そう」
「そんな、酷い……っ」
僕の言葉を聞いた天使の瞳に、涙が浮かぶ。握りしめられた手は、力を入れすぎて常時よりも白くなってしまっている。その様子に心臓が握りつぶされる様な罪悪感を覚えるが、現状、犯人の心境としてはそれが一番近いのだ。
(……それならば、この現状にも説明がつく)
回数が少ないから、余計捕まえられないのだろう。単純に、残される証拠と言えるものが少ないのだ。