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じっとこちらを見据える彼女に、僕は躊躇う。整った顔と真正面から長時間向き合っていられるほど、図太い神経をしていない。
綺麗な黒曜石のような瞳に、腰まで伸びた鴉の羽毛のような艶やかな黒髪。雪のように白い肌に乗る、桜色の唇。そして細い四肢と文句の付けようがないプロポーションが、彼女を神秘的に魅せている。年齢は――高校生くらいだろうか?
彼女のあまりの美しさに、妻がいる身ながらも見惚れてしまう。しかし、そんな愛らしさとは裏腹に、少女らしからぬ表情をする彼女に僕は眉を顰めた。
(何かしてしまったのか?)
まるで睨みつけられるような、鋭い瞳。……もしかしたら、悪戯をしていると思われているのかもしれない。僕は両手を上げ、何も持っていないことを示すと、ゆるりと首を振った。
「大丈夫、悪戯をしている訳じゃない」
それを聞いた少女は、驚くように目を見開いた。的外れなことを言ってしまったのかもと思うと、ぶわりと変な汗が出てくる。ごほんと空気を帰るように咳払いをしたのは、自然だろう。
「……君は、どうしてここに?」
僕は少女に声を掛ける。彼女の様相から内心で『天使』と名付けると、ゆっくりと立ち上がった。少女は応えない。僕は彼女の手元を見て、再び彼女を見る。
「君は、土鳩供養をしにきたのかい?」
続けて、僕は美少女に声をかける。彼女はぴくりと肩を跳ね上げると、視線を逸らした。向かっている先には、土鳩の亡骸があったブランコが鎮座している。ゆっくり戻ってくる視線が、かち合う。ビビッと走った電流に、僕は知らず背が伸びる。……出会ってから既に数十分見つめ合っているはずなのに、初めて視線があったような気がした。少女は自身の持つ花を見下ろすと、ゆったりと桃色の唇を開いた。


「時間がありません」
「今は何も聞かないでください」と言って彼女は直進するとテープの前に花を添え、両手を合わせた。数秒祈りを捧げたかと思えば、早々に立ち上がり踵を返した。僕は一連の流れを見送り、ハッとする。
「待ってくれ!」
「……何ですか?」
「あ、えっと……君は、土鳩の殺害事件について何か知っているのかい?」
彼女の腕を取り、問う。自身でも思った以上に必死な声が出てしまったような気がするが、気にしている余裕はない。ぐっと腕を掴んだ手に、上から彼女の手が被せられる。宥めるような手に力が抜け、徐々に手が下ろされる。少女は少しの間、沈黙を置き、ゆっくりと口を開いた。