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彼女の答えを聞いて僕が選んだのは、そこから程なく歩いた所にある小さなカフェだった。カランカランと鈴が鳴り、店内の者に来店を報せる。
「いらっしゃいませ。二名様ですか?」
「はい」
「お好きな席へどうぞ」
にこやかな対応に軽く手を上げて、僕は彼女を振り返った。好きなところを選んでいいと目で告げれば、彼女はおずおずと店内の比較的隅の席へと足を運んだ。その背中を追いつつ、横目で店内を見回す。
(……凄いな)
皆が皆、天使を目で追っている。仕事の休憩にと新聞を読んでいたサラリーマンも、談笑していたご婦人方も、勉強をしていたらしい女性も。彼女が通るのと同時にハッとしたように顔を上げ、彼女の行く末を見つめる。まるで引き寄せられているように。
(……やっぱり、この子は凄い子だ)
僕には、勿体ないくらい。
「ここでいいですか?」
「嗚呼、構わないよ」
どうぞとソファーの席を差し、僕は手前の椅子に腰掛ける。この辺りは窓からの光も少ないのか、人の死角になりそうな場所で、秘密の話をするのには絶好の位置だろう。僕はメニューを手に取ると、天使へと差し出した。
「好きなものを頼んでいいよ」
「えっ、でも」
「いいんだよ。その代わり、土鳩のことを教えてくれよ」
「そんなっ、教えることなんて何も……」
いやいやと謙遜する彼女に、僕は何も言わず笑みを返し、もうひとつのメニューを取って写真を眺める。戸惑う空気が漂ってくるが、気に留めていなければ次第にそれも薄れていく。僕は自分の気持ちを押し込めるように内心で呟く。僕は珈琲ゼリーと珈琲を、彼女は珈琲とパンケーキのセットを注文をすると、顔を向かい合わせた。
「そうだ、土鳩たちはよく来るのかい?」
「あ、はい。最初は一匹だけだったんですけど、餌をあげている内に増えてきちゃって」
「鳩は群れるからね」
「そうですね。でもまさか、あんな早く増えるとは思ってもいなくって」
頬を掻きながら正直に笑う彼女に、僕は胸が高鳴るのを感じる。恥じらうように若干頬が染まっているのが、何とも愛らしい。
(って、何考えているんだ僕はっ)
ふるふると首を振って、邪な思考を飛ばす。こほんとわざとらしい咳ばらいをして、僕は彼女に笑いかけた。
「でも、あんなに仲がいいなんて珍しいんじゃないか?」
「そうですか?」
「ああ。鳩だから懐き易いかもしれないが、あそこまで警戒心がないのは初めて見たよ」