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(警察なんて、信用ならないな)
飲み干されたカップを置き、僕は筆を執る。僕にできることはただ一つ。この残虐非道な事件を調べ、世間に警告することだ。我らが街の警察はこんなにも無能なのだと、残酷な人間から自分たちが彼らを守るのだと。そう世間に伝えるべきだ。
「君は本当に真面目だね」
「僕は当然のことをしているだけさ」
目の前で呆れたようにため息を零すちゅう秋に一瞥をくれてやり、僕は真白いノートに『土鳩殺害事件の調査』と殴り書いた。──これが僕の人生を大きく揺るがすひとつになるとは、知らず。

僕は早速、土鳩が殺害されていたという現場に赴いた。幸い、新作を出したばかりで本業の小説の執筆スケジュールも空いている。怒られることも、締切で急かされることも無いはずだ。僕はメモ帳と財布を持って、身一つで一番近い事件現場に辿り着いた。
──寂れた公園の、ブランコの上。今は赤いカラーコーンとキープアウトのテープがその場を区切るように貼られており、本来のイメージにそぐわない、物々しい雰囲気となっている。僕は歩みを止め、じっと見つめた。
「……夥しい血の量だな」
一つだけ黒く染まったブランコに、眉を顰める。まるで赤黒い絵の具をぶちまけたかのようだ。地面に流れ落ち、染みついた血液らしき物も色を変えて赤黒い斑点を作っている。──随分と凄惨な現場だったのだろう。住宅街ではない為に通報が遅れたこともあり、当時は酷い悪臭が立ち込めていたらしい。今日この現場に来てわかったが、確かに人通りは少なく、精々通勤通学のサラリーマンや学生がチラホラと通る程度だった。
「可哀想に……」
『KEEP OUT』と書かれた黄色いテープの前に跪き、両の手を合わせる。祈りを捧げ、ふと振り返れば少女と目が合った。
(この子、いつから……)
驚いたのも束の間。少女の美しさに息を飲む。──まさに“絶世の美女“。そう言わんばかりの見目の良さに、僕は直ぐに反応することが出来なかった。数十分にも感じる時間、僕達は見つめ合い……最初に折れたのは、僕の方だった。
「えっと……何か用かい?」
「……」