28
曇天の空からは、雨がしとしとと降り続けている。傘はあまり好きではないものの、流石に濡れたままインタビューをするのは失礼だろう。
(神主さん、いらっしゃるだろうか……)
神社の事を思い出した途端、脳裏を過った艶やかな黒髪を頭を振る事で追い出す。今は仕事中だ。現を抜かしている場合ではない。——なんて言う事は、わかっているのだけれど。
「会えればいい、なんて……何考えているんだ、僕は」
どうしても離れない彼女の顔に、僕は口元を手で覆う。恥ずかしいとか、気まずいとか、いろいろな感情が綯い交ぜになってどうしたらいいのかわからなくなってくる。
(小説なら……簡単なのにな)
まさかこんなところで自分の未熟さを思い知る事になるとは、思わなかった。
どんよりとした気持ちを抱えたまま神社に辿り着いた僕は、入り口前で足を止める。赤い鳥居の前は、いつかの公園のように『KEEP OUT』の文字と黄色のテープが張り巡らされており、物々しい雰囲気を醸し出している。血溜まりは既に掃除されていたのか、雨で流されたのかはわからないが、比較的綺麗になっていた。とはいえ、やはりこびりついたものは取れないのか、黒い斑点が僅かに見て取れる。僕は数秒、事件現場を見つめると本殿へと足を進めた。赤い鳥居は、潜る気にはなれなかった。

「昨日の今日ですみません」
「いえいえ。今日はよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
神社の本殿前。雨の中、出迎えてくれた神主——朴念仁に頭を下げ、僕は名刺を取り出す。仰々しく挨拶を交わした僕達は、雨の中話すわけにはいかないと神社の奥へと足を進めて行った。神主の案内で中へと通された僕は、差し出される座布団を有難く受け取り、腰を掛ける。神主が腰を下ろしたのを見て、ちゅう秋にも見せた企画書と同じものを朴念仁に差し出した。
「こちら、企画書です。急遽作った物ですが、お目通しいただければと」
「はい。わかりました」
朴念仁は企画書を受け取ると、早速中を見始めた。沈黙と共に僅かな時間が経ち、朴念仁は書類を見終わったのか顔を上げると「概要は把握いたしました」と笑みを浮かべる。礼を告げ、僕は取材の流れを説明する。その説明に相槌を打つ朴念仁をちらりと見つつ、僕は空いている窓から外を見つめた。無意識に彼女を探していた事に気が付き、ふるりと頭を振る。
(駄目だ駄目だ!)