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調査には、丁度よかったのかもしれない。そう思う僕は、もう立派な記者なのだろう。
帰り際、現場の近くで少なくなった人々から短時間だけ聞き込みをした内容を思い出す。徐ろにメモを書き連ねたノートを見下げれば、走り書きで書かれた文字は到底人に見せられるものではなかったが、情報としては十分な役割を果たしていると思う。
(とはいえ、あまり犯人の手がかりになりそうなものはないんだが……)
書いてある事柄を読み上げ、再度肩を落とす。収集した情報を並べるに、『犯人は不明』である事、『見つけた酔っ払いは近所でもかなりの迷惑男だった。第一発見者となって言い気味だった』事、そして『前日、高校生くらいの女の子が土鳩に餌を上げているのを見かけた』事だけ。……前日に餌をやっていた事がバレているという事は、警察も知っているのだろう。もしかしたらもう天使とあの光景を二度と見ることは出来ないのかもしれないと、僕は更に落胆したのを覚えている。
「せめてこの酔っ払いに話を聞くことが出来ればいいが……」
近所の人曰く彼はかなりのアルコール依存症で、昼間から飲んでいるような人間なのだとか。事情聴取もしっかりと出来たのかすら怪しいと思われるくらいには、普段からだらしない人らしい。話を聞こうにも、しっかりと答えてくれるかどうかは難しいだろう。かといって、彼に話を聞く以外に何か有力な手があるとは思えない。
「締め切りも近づいているしなぁ」
日付を思い出し、更に肩を落とす。……有力な情報がない中、どうやって読者を引き込む様な記事を書けばいいのか。確かに新しい事件が起きた事によってネタは出来たようなものだが、それを面白可笑しく書くのは自分のポリシーに反する。——が、それをしなくてはいけないのが、記者である。
「……仕方がない。神主にインタビューをして、それを掲載するとしよう」
僕は諦めたように呟くと、スケジュール帳に予定を書き込んだ。なんなら、ちゅう秋の知名度を借りて彼の見解を書いてもいいかもしれない。彼はデザイン部門ではかなり有名なのだから、その発言力の大きさにもそこそこ期待が出来るはずだ。しかも顔が良いからお茶の間の奥様方には、非常にウケがいい。僕はそう計画を立てると、彼にスケジュールを確認するために公衆電話へと足を運んだ。