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ハハハッ! と豪快に笑みを浮かべる彼に、僕は顔に熱が込み上げるのを感じる。それは怒りにも羞恥にも似ていた。競り合った感情は僕の腹から頭にまで真っすぐ駆け上って来ると、僕に激情を齎した。
「――そうだったとして何が悪い! 人の感情を笑うんじゃない!」
僕は声を荒げた。まるで自分の感情を馬鹿にされたようで、自分の気持ちはくだらないものだと嘲笑われているようで、心底腹立たしかったのだ。
(どいつもこいつも、僕の事を知ったように言いやがって!)
ちゅう秋も、目の前の青年も。人の感情を面白がっているのが透けて見えるのだ。——この感情が、僕が持ってはいけない事だなんてことは、自分が一番理解している。それでも、止められないのだ。理性とは裏腹に、天使への興味も好意も膨れ上がっていく一方で、僕にはどうしようもないのだと。どうしたらわかってもらえるのか。
僕は青年を思い切り睨みつける。一瞬青年が狼狽えたが、やめる気はさらさらなかった。
「君に僕の事なんかわかるわけがない」
「……チッ。いい歳したおっさんがマジになんなよな、だっせぇ」
「っ」
ハッと鼻で笑われ、僕は拳を強く握り込む。このまま振り被りたいのを、必死に抑えつけた。青年はそれを見て更に気に入らなかったのか、踵を返すと後頭部をイラついたように掻く。
「はー、興覚めだ。俺はもう帰る。神主、俺が来た事を彼女に伝えておいてくれ。この俺が、君を心配していたと」
「え、ええ、わかりました。伝えておきます」
背中を向けたプレイボーイは、吐き捨てるようにそう告げると、来た道を戻り始めた。その様子を見ていた妖女は「待ってぇ~」と声を上げながらその後ろ姿を追いかけて行く。台風のような二人の退場に、僕と神主はどちらともなく息を吐いた。
しばしの沈黙ののち、「それじゃあ、僕も」と神主に告げ、家路に戻る。天使が無事であったことに安堵したものの、予期しない騒ぎに巻き込まれてもう満身創痍だった。
「まさかプレイボーイと会う事になるとはなぁ……」
あの光景を見て、そう時間は経っていないのにどうしてこんなことになったのか。はあとため息を吐いて、僕は空を見上げた。既に陽が傾き始めた空は、昼よりも少し雲の量が多くなっているような気がした。どんよりした雲は重く、今にも落ちてきそうである。
(明日は雨か……)
僕はぼんやりと意識を宙へと放る。——しかし、まあ。
「現場を直接見られたのはよかったな」