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青年の方は天使にしか興味がないらしく、今も神主に詰め寄っている。見た目通りの人間なのだろうと予測を立てた僕は青年を『プレイボーイ』、水商売の彼女を『妖女』と呼ぶことにした。……会話の途中でなんだか名前らしき言葉も聞こえた気もするが、全く覚えられて居ないのだ。——許してくれ。
「それで、お目当ての彼女とは会えたのぉ?」
「いいや。どうやら休みらしい。使えねぇなぁ」
「えー、ざんねぇんー」
(よくもまぁ、そんな声が出るなぁ……)
どこから出しているのか疑問になるような猫なで声に、僕は苦笑いを浮かべる。あまり好ましく思えないが、人によっては好きな人もいるのだろう。……きっと。
妖女は簡単に青年と会話を終えると、神主の首に腕を回してその豊満な胸を押し付けた。たじたじになっている神主に、ご機嫌な笑みを向けている。どうやら彼女は神主を気に入ったらしい。それでも尚、紳士的に対応をしようとする神主に内心で僕は『朴念仁』というあだ名を付けた。三人の名前が決まったところで、僕はゆっくりと青年──プレイボーイへと視線を向けた。不機嫌そうな顔を隠さない彼に思い出すのは、ちゅう秋との会話。僕は深呼吸をすると、プレイボーイに声を掛けた。
「こ、この辺は物騒ですね」
青年は答えない。それどころか不機嫌そうに眉をしかめただけだ。僕は挫けそうになる心を叱咤して、話しかけ続ける。
「君は、その……彼女と仲がいいのかい?」
「あ? 誰の話だよ」
「ほら、よくここに来ている……」
そこまで告げれば、男は見るからに驚いた顔をする。自分以外にも知っている人間がいた事に驚いたのか、それとも話題を振られるとは思っていなかったのか。しかし、彼は数秒後、思い切りこちらを睨みつけて来た。その心境の変化について行けないまま、彼は僕に吐き捨てた。
「彼女は俺のもんだ。手ぇ出したら容赦しねぇからな」
……美形の迫力とは、思っていたよりも凄まじい。ギッと睨んでくる彼に、ひゅっと息が音を立てた。――しかし、此処でひいては男が廃る。そう思った僕はごくりと生唾を飲み込むと、恐る恐る訪ねた。
「君は……あの子の彼氏なのかい?」
「あ? 例えそうであってもそうでなくても、おっさんには関係ないだろ」
「そ、それはそうだが……」
「はっ。それとも何か? あの子にアンタみたいなおっさんが惚れたとでも? その年齢で? 笑わせる!」