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「あの子に会いに来たんでしょう?」
神主の言葉に、僕はハッとして頷く。恐らく彼の言う“彼女”は天使で間違いないだろう。「高校生くらいの」と付け足せば、「存じておりますよ」と微笑まれた。しかし、次の瞬間、神主は申し訳なさそうに眉を下げると恭しく頭を垂れた。
「せっかく足を運んでいただいたのに申し訳ございませんが、彼女は来ていません」
「えっ」
「といいますか……こういった事態になってしまったこともあって、当分来ないようにと言ったんです」
「彼女に何かがあってからじゃあ、遅いですから」と笑う神主に、僕はやっと彼の話を理解した。そして、ほっと安堵の息を吐く。
「そうですか。それは良かった」
徐ろに胸を撫で下ろし、彼女の笑った顔を思い出す。
(巻き込まれていなかったようで、安心した)
会ってしかと無事を確かめられなかったのは些か残念であるが、彼女が無事ならばそれでいい。——そう思った瞬間。後ろから肩が引っ張られ、体が後方に倒れ込む。慌てて足に踏ん張りを利かせたが、一、二歩と後ろに退いてしまった。顔を上げれば、そこに居たのは何時しかの青年だ。
「おい、神主!」
「おや、君は」
「彼女は無事なんだろうな!?」
「ええ、無事ですよ」
「本当か⁉ 彼女は今どこにいる⁉」
「す、少し落ち着いてくださいな」
騒がしく、更に図々しく割り込んできた青年は、神主を睨みつけると声を荒らげた。引き剥がされるように引かれた肩が僅かに痛むのを感じ顔を顰めるが、彼はこちらの動向に気づいてすら居ない。窘めるような神主の声に、しかし彼はヒートアップしていく。
「俺は落ち着いてる! それより彼女を出せ! 早く!」
「か、彼女は今日はここに来ていないですよ」
「はあ!? それじゃあ、彼女は今家で一人だっていうのか!?」
「い、いえっ! 彼女は実家暮らしだそうなので、御家族の方がいらっしゃるかと……」
「うるさいっ! お前なんかに彼女の気持ちの何がわかる!」
神主が胸前で振る手を青年は勢いよく叩き落とす。その勢いは見ているこっちが引いてしまうほど乱暴で、どうやら彼はかなり不機嫌なようだ。そんな青年を見つめ、僕は首を傾げる。
(この青年、どこかで……)
明るい髪に、女ウケのしそうなスタイル。四肢の長さといい、整った顔といい、一般人には到底――。
「あっ、君はこの間の」
「あ? 誰だよ、このおっさん」
「おっ……!?」
(おっさん……!?)