20
もしかしたら、飽きたのは犯人ではなく世間の方なのかもしれない。そんな予想を立てながら、僕はリビングに戻り——唖然とした。
「……嘘だろ」
『土鳩、またもや残虐死体発見⁉ 犯行現場は神聖な神社で……』堂々と画面の右上に大きく書かれたテロップに、僕は血の気が引いていく思いがした。映像に映るのは、神妙な顔をして状況を伝えるニュースキャスターだけで。
「あ、それ。今日の朝から騒がしかったんです」
「朝から?」
「ええ。てっきりご存知かと」
妻の言葉に、僕はテレビから目を離さないままふるりと首を振る。……自分が寝こけている間に、何があったのか。既に切り替わってしまったニュースから視線を逸らし、妻を見る。焼き魚とみそ汁を置いた彼女は、顔を上げると気の毒そうな顔でテレビに視線を向けた。
「ひどい事件ですよね……」
「見つかったのは何時だって?」
「え? えぇっと確か……昨晩の二十三時過ぎに酔っ払った人が見つけたとかなんとか」
「昨晩の、二十三時過ぎ……」
(僕が酒を飲んでいた時にそんな事が起きていただなんて)
原因を突き止めてやると言ったくせに、何も出来ていないどころか土鳩たちが苦しんでいる間に笑って楽しんでいた自分に、自己嫌悪感が込み上げてくる。——嗚呼、なんと不甲斐ない。はあっとため息を吐いて、僕は食卓に着く。いただきますと両手を合わせれば、向かいで彼女も両手を合わせた。
僅かに重い気持ちで食事を進めていれば、ふと妻が思い出したかのように声を上げる。
「そういえば、犯行現場になった神社ってこの近くなんですって」
「えっ?」
「知りませんか? 近くの住宅地にある小さな神社で、赤い立派な鳥居があるんです」
「!」
ガタンッと大きな音を立てて、僕は立ち上がった。驚いた妻に、僕はまくし立てるように声を連ねる。
「今、なんて言った」
「え、えっと……住宅地で、赤い鳥居のある神社ですけど……」
(住宅街にあって、神社で、赤い鳥居がある……?)
――そんなの、一か所しか知らない。
茫然とする中、妻は思い出したかのように声を上げた。
「そういえば、以前近くの公園でも同じような事件が起きたとか……聞いたのですけれど……」
戸惑う彼女の声が、徐々に小さくなっていく。込み上げてくるのは、殺意にも似た怒りだった。——僕は跳ね上がるように駆け出した。
「すまない!」
「ちょ、ちょっと、あなた!」
「帰ってきたら食べる!」
もしかしたら、飽きたのは犯人ではなく世間の方なのかもしれない。そんな予想を立てながら、僕はリビングに戻り——唖然とした。
「……嘘だろ」
『土鳩、またもや残虐死体発見⁉ 犯行現場は神聖な神社で……』堂々と画面の右上に大きく書かれたテロップに、僕は血の気が引いていく思いがした。映像に映るのは、神妙な顔をして状況を伝えるニュースキャスターだけで。
「あ、それ。今日の朝から騒がしかったんです」
「朝から?」
「ええ。てっきりご存知かと」
妻の言葉に、僕はテレビから目を離さないままふるりと首を振る。……自分が寝こけている間に、何があったのか。既に切り替わってしまったニュースから視線を逸らし、妻を見る。焼き魚とみそ汁を置いた彼女は、顔を上げると気の毒そうな顔でテレビに視線を向けた。
「ひどい事件ですよね……」
「見つかったのは何時だって?」
「え? えぇっと確か……昨晩の二十三時過ぎに酔っ払った人が見つけたとかなんとか」
「昨晩の、二十三時過ぎ……」
(僕が酒を飲んでいた時にそんな事が起きていただなんて)
原因を突き止めてやると言ったくせに、何も出来ていないどころか土鳩たちが苦しんでいる間に笑って楽しんでいた自分に、自己嫌悪感が込み上げてくる。——嗚呼、なんと不甲斐ない。はあっとため息を吐いて、僕は食卓に着く。いただきますと両手を合わせれば、向かいで彼女も両手を合わせた。
僅かに重い気持ちで食事を進めていれば、ふと妻が思い出したかのように声を上げる。
「そういえば、犯行現場になった神社ってこの近くなんですって」
「えっ?」
「知りませんか? 近くの住宅地にある小さな神社で、赤い立派な鳥居があるんです」
「!」
ガタンッと大きな音を立てて、僕は立ち上がった。驚いた妻に、僕はまくし立てるように声を連ねる。
「今、なんて言った」
「え、えっと……住宅地で、赤い鳥居のある神社ですけど……」
(住宅街にあって、神社で、赤い鳥居がある……?)
――そんなの、一か所しか知らない。
茫然とする中、妻は思い出したかのように声を上げた。
「そういえば、以前近くの公園でも同じような事件が起きたとか……聞いたのですけれど……」
戸惑う彼女の声が、徐々に小さくなっていく。込み上げてくるのは、殺意にも似た怒りだった。——僕は跳ね上がるように駆け出した。
「すまない!」
「ちょ、ちょっと、あなた!」
「帰ってきたら食べる!」