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時は昭和。所は日本での話である。
発端は僕の副業であるカストリ雑誌の取材から始まった。僕は自身の本業に暇ができたので、趣味とも言える副業でもしようと思い立った。そして今、僕はいいネタが無いかと妻が淹れてくれた茶を楽しみながら、ラジオを聞いていた。
──カストリ雑誌とは、第二次世界大戦終了に合わせて出版自由化された娯楽雑誌の事だ。今で言うファッション誌や週刊誌などに似たようなものだろう。ありとあらゆる雑誌の中でも、僕が担当するのは猟奇的事件の一ページだ。非人道的な犯罪や理解に苦しむような事件を集めた雑誌──つまり、常識から外れた文字通り“猟奇的な“雑誌である。ミステリー小説が好きな僕にとっては、まさに趣味と実益を兼ねた仕事なのだ。……とはいえ、そんな事がそう多くあるものでもないのだが。
今日も空振りかと茶を啜りつつ、思う。これならば自分の足で事件を探しに出た方が有意義かもしれない。──そんなことを思った矢先だった。
「次のニュースです」
淡々と。無感情に読み上げられる情報に、緊迫した声が紛れ込んできたのだ。キャスターである女性が続ける。
「本日、土鳩の惨殺死体が発見されました。事件現場は都内某所の──」
(またか)
僕は毎日のように聞いているそのニュースに、眉を顰めた。──なんと痛ましい。数ヶ月前から聞くようになった、ひとつの事件。それは残虐非道に嬲られた土鳩達の死体が、決まった区域内で不定期に見つかるというものだった。人でないだけマシなのかとは思ってしまうが、やはり鳥獣を虐待し、殺害する事が犯罪であることに変わりはない。ラジオの奥でコメンテーターが「早く犯人は捕まって欲しいですね」と言っているが、それも本心なのかどうなのか。皆、口を揃えて“残念だ“と言っているが、それとは裏腹に犯人が捕まる様子は、今のところない。話によれば、被害者が人間ではない為に警察が本腰をいれて捜査していないとか、あまりにも残虐なために報復を恐れて保身に走っているのだとか、色々な噂があちこちで囁かれているそうだ。僕は窓の外を見つめ、思案する。頬杖をついた先に見えたのは、壊れた消火栓と散らばるゴミ箱。ついさっき、はしゃいだ若者が壊していくのを見たばかりだった。
(いつ警察がくるのやら)
平和の象徴である彼らが到着するのは、きっとヒーローらしくもう少し後なのだろう。そういう、余裕ぶって高みから見下ろしているような態度が、僕は許せなかった。