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「君こそどうしたんだ、そんな洒落こんで? イメージチェンジでも始めたのか?」
「そんなわけないだろう。少し大きな所にお邪魔していたんだよ」
そう告げる彼は僕の言葉をかき消すように、軽く手を振る。
デザイン系の職業に就いている彼は、どうやらかなり人気な作家なようで、あちこちに引っ張りだこらしい。今日も大きな所に行っていたということは、恐らく何かの依頼の打ち合わせ、もしくは資料になる物の取材をしに行ったというところだろうか。
「相変わらず忙しそうで、羨ましいよ」
「そういう君だって、今日は新作のインタビューを受けていたんだろう? マネージャーから聞いたよ」
「いつも熱烈だな」
「嬉しいくせに」
「もちろん。読者はみんな等しく僕にとって大切な人たちさ」
笑みを浮かべ、そう告げれば「君は本当に善人だね」と言葉を返された。皮肉じみた言葉だが、悪意のない声色に僕は肩を揺らした。
(君だって、僕の新刊には必ず目を通してくれているくせに)
彼のマネージャー――相沢君は、どうやら僕の熱烈なファンらしい。デビュー当時、既にちゅう秋の担当をしていた彼がしきりに担当しゃにしてくれと乗り込んできては、ちゅう秋に首根っこを掴まれていたのを思い出す。そんな彼から熱烈なプレゼンを受け続けているちゅう秋が、彼から毎度僕の新刊を押し付けられていると聞いた時には腹がよじれるほど笑った。
「それより、突然どうしたんだい? また土鳩の件か? 残念だが、私にはまだ何も新しい情報は入ってきていないよ」
「嗚呼、いやなに。……突然、君の顔が見たくなっただけだよ」
「ほう」
「ついでに情報があれば、とも思ったが……それは見透かされていたようだ」
ははっと笑みを浮かべ、通された居間の定位置へと腰を下ろす。藁と木で造られた椅子は体重を掛けるとぐっと曲がるが、座り心地は案外悪くない。和風でまとめられた家具たちに交じって見える洋風の家具は、確か彼の奥さんが持って来たものだったはずだ。