12
「随分と懐かれているんだね」
「そうでもないですよ。元々、この子達は警戒心が強いわけではないですから」
「そうなのかい?」
「ええ。だからこそ、あんな事件が多発してもこうやって人間の所に寄ってくるんでしょう?」
そう言って笑う彼女の笑顔は、自虐にも諦観にも似ている。しかし、垣間見える慈愛の念は嘘ではないようで。
(……随分と気に入っているんだな)
この場所も、この子達も。
腕に一羽、土鳩を止まらせた彼女は、日本美溢れる風景を切り取った絵の如く美しく。その様子にただ見惚れるしか出来なかった僕は、やがて土鳩達が巣の樹木に飛んで行く姿を彼女と共に見送ることしか出来なかった。

「それでは、また」
「はい。お気をつけて」
行儀よく頭を下げる彼女に、僕は「君もね」と声を返して背を向けて歩き出した。向かう先はもちろん自身の家である。手帳に書いた土鳩の生態を見返しながら、今日一日のことを思い出す。土鳩と戯れる彼女の屈託のない笑顔はどこまでも慈愛に満ちていて、とてもじゃないが邪魔することは出来なかった。——しかし、それはつまり仕事が進まなかった事を意味しており。
「……次はしっかりと取材をしなくてはな」
深呼吸するように深く息を吐き、意識を切り替える。あの秘密のような時間を守るためにも、僕はこの事件を解かなくてはいけない。茜色が紺色に沈んでいく空を見て、僕は再びそう誓った。

――それから数日後。
僕は今度こそ取材をするのだと、夕方に神社に向かっていた。昼間は小説業のインタビューが入っていたからこんな時間になってしまったが、学生である彼女に会うには丁度よかったのかもしれない。
相変わらず人通りの無い犯行現場を通りすぎ、足早く神社へと進む。手水舎で手指と口内を清めると、赤い鳥居を目指す。——そこに、先客が居た。
彫りの深い整った顔立ちに、女性ウケの良さそうな細くしなやかな四肢。明るく染めた髪は、ヘアリキッドのようなもので整えられているのだろう。自身を魅せることを極めたファッションを、自然と着こなしている青年。自信に溢れた背中は、一般人と言うには甚だ疑問が残る風体をしていた。
(どこかで撮影でもやっていたのだろうか……?)
そう思ってしまうほど、青年は男性の自分から見ても全てが整っていた。男優だと言われても不思議ではない彼だが、残念ながらテレビで見た記憶はない。——それに。
(カメラマンの姿もマネージャーらしき人の姿も見えないな)