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勝手に勘違いして格好つけたのだという現実を突きつけられ、僕は堪らず羞恥に体を丸める。思わず唸り声を上げてしまったが、無視してくれることを心底祈る。
(勘弁してくれ……)
女性の前では格好つけたいと思うのが男だというのに、先ほどから格好つかない事ばかりしてしまっている気がする。彼女はそんな僕の気持ちをわかっているのか、笑うことなくからりと玄米の入った茶碗を揺らすとこちらを見つめた。
「まあ、こうしてよく来ているので、結構間違われるんですけどね」
「だ、ろうね」
「なので、気にしなくていいですよ」
彼女の言葉に、今度こそ僕は頭を抱えるしかなかった。
(気を使われるのが一番恥ずかしいんだ……!)
僕は顔の熱を冷やすため、顔を手で仰ぐ。そよぐ風が冷たい。天使を盗み見れば、彼女はいつの間にかシートの上に寝転がっていた。黒い髪がシートの上に無造作に広がる。無防備な姿に、僕は息を飲んだ。
(…これで僕が暴漢だったら、どうするんだか)
そんな事を思いつつ、苦笑いを浮かべる。さすがにこんな所で襲い掛かるほど、僕は人間を辞めていない。誘われるような視線を向けられ、おずおずと僕も体を倒した。僅かな砂利が背中に刺さって若干痛いが、気にするほどでもないだろう。
「流石に疲れたな……」
朝から動いたこともあり、徐々に落ちてくる瞼は意識を微睡みに誘う。……気がついた時には、夢の中へと旅立ってしまっていた。

――クックー。クルックー。
意識の僅か外側。奇妙な鳴き声と感じた事のない気配に意識が浮上する。先程まで広く青い空が、日が暮れて美しい茜色に変化していた。
「あ、起きましたか?」
「す、すまない。いつの間にか寝てしまったみたいだ」
「いえ、全然いいですよ」
「きっとお疲れなんでしょうし」と続ける彼女に、「いやぁ、お恥ずかしい」と言葉を返した。
せめてもの罪滅ぼしというように、用済みとなったブルーシートを畳み、振り返る。掃除したばかりの石畳の上に群がる土鳩達は、どこかご機嫌に天使から与えられる餌を食い鍔んでいた。天使は大きな袋から餌の玄米を取り出すと、人に迷惑にならなさそうな場所へと撒く。鳥居を背に土鳩達を屯させる彼女は、まるでとある童話に出てくるお姫様のようだった。振り返った先にあったはずの自身の茶碗は、既に何匹かの鳩に突っつかれた後だったのかひっくり返されており、僕は苦笑いを浮かべる。