「……すごい、もう着いた」

 驚きで目をパチパチさせるルナ。

 ルナに獣人の村の場所を聞いた俺は、コボルトにスライムを乗せて走らせて、お決まりの異空間共有で移動していた。

「トキヤはおかしいから。でも悪い奴じゃないから安心して」
「人聞きが悪いな……」

 ルナの頭にポンと手を置いて首を振るイブ。
 なんだかよく分からないが、悪口を言われている気がする。

「まあ、細かい説明は後にして、今は村の人たちを救うことを急ごう」

 ルナに案内されるまま森の奥へ進むと、道が開ける。そこには集落があった。

「ここが獣人の村か……」

 人間の暮らす村や街とは異なる、木々に組み込まれるように家屋が作られており、不思議な景色だった。

「ーーひどいわ」

 イブがごくりと息を飲む。

 村に並んだ家屋は打ち壊され、ところどころ煙が立ち上っている。
 明らかに襲撃された様子が見てとれる。

「この辺の家には誰もいないみたいだ」
「早くみんなを助けないと……こっち!」

 そう言うや否や、走り出すルナを慌てて追いかける。

「あ、あそこに人がいるわ」

 イブが少し先を眺めながら指をさす。
 確かに人の気配が感じられた。

「おっと、ルナ、一旦隠れよう」

 ルナを引き留め、音を立てずに三人で塀に身を隠す。

 どうやら少し進んだ先に広場があり、そこに村人の獣人たちが集められているようだ。

 獣人たちがボロボロの様子で、縄で縛られているようだ。
 その前には、武装した黒ずくめの男たちが立っている。

「あいつら……あいつらがこの村を襲った犯人だよ!」
「なるほどな……ルナ、君はまだ傷ついてる。ここは俺とイブに任せてくれ」
「そうよ、私たちがなんとかしてあげるから」
「二人とも……」

 俺とイブは、安心させるように力強く頷く。

「ここにいる奴らで全員なんだよな?」
「ああ、もう他には見つからなかった。こいつら全員奴隷として売り払えば、一人当たり10万ピルだとして……俺たちは億万長者になれるな」
「全く、初めは抵抗して大変だったぜ。人間様に勝てるわけねぇってのによ」

 下卑た笑いを浮かべながら、男たちが笑い声をあげる。
 その様子から、ならず者であることは明白だ。

「お前たちっ……村を襲うなんて、王国騎士団が知ったらすぐに捕まるぞ! それに奴隷制度は廃止されてるはずだっ!」

 手足を縛られ、身体中が傷だらけの獣人の一人が、怒りに声を振るわせながらそう訴える。

「呑気なもんだな。俺たちはちゃーんと捕まらないようになってんだよ。それに、陰で奴隷を欲しがる貴族は山ほどいる……世界は残酷なんだよ」
「くっ……」

 悪人どもは全く動揺することもなく、堂々とそんなことを言ってのける。
 よっぽど自分たちが捕まらない自信があるらしい。

「応援が来るにはまだ時間があるな。暇つぶしに、獣人どもをいたぶることにするかな……一人くらい死んだって構わないだろ」

 男たちの一人がニヤリと笑うと、ナイフを腰巻きから取り出し、獣人に突きつける。

「だ、誰か、助けてっ」
「祈っても誰も助けには来ねーよ」

 振り翳されるナイフ。
 しかし、それが獣人に届くことはなかった。

「全く、ゲスすぎて手加減する気も起きないな……」

 ドサっとその場に崩れ去る男。
 その背後には、音もなく近寄っていたトキヤが仁王立ちしていた。

「だ、誰だテメェは……ぐぁっ」
「許せない、人間のクズども」

 また別の男が崩れ落ちる。
 その後ろには剣を構えたイブが立っていた。一瞬のうちに切り捨てたのだ。

「敵襲だ! お前ら戦闘準備しろ!」

 男たちが武器を取り出し構えた瞬間、トキヤが手を動かす。

「くらえ、〈アイスキューブ〉!」

 そう叫ぶと、たちまちに男たちの手足が凍り始め、戦闘不能になる。

「なんだこりゃ⁈」

 まったく予想だにしない魔法の攻撃に、男たちは混乱し次々と倒れていく。

「こりゃ便利な魔法だ」
「やくにたったー?」

 俺の背中に張り付いていたスライチが顔をぴょこっと出す。

「あぁ、レベルが上がってスライムたちも新しい呪文を覚えたんだよな」
「そうだよーぼくたちつよいんだよー」

 小さい身体で胸を張るスライチ。
 その見た目からは微塵も強さは感じられないが、この魔法はスライムを使役して使用できるようになったものだ。